[HCG28-10] 福島県阿武隈山地のスギ林及びコナラ林における放射性セシウム分布
キーワード:東京電力福島第一原子力発電所事故、放射性セシウム、コナラ、スギ
東京電力ホールディングス福島第一原子力発電所事故(以下、1F事故)に由来する放射性物質のうち、137Cs(以下、Cs)は半減期が約30年と長く、今後長期にわたり分布状況をモニタリングし、その影響を注視していく必要がある。福島県阿武隈山地の生活圏に隣接する落葉広葉樹林(以下、コナラ林)及び常緑針葉樹林(以下、スギ林)における2013年以降の6年間にわたる長期観測により、森林外へのCs流出量は調査地におけるCs沈着量に対して、コナラ林で年間0.01-0.41%及びスギ林で年間0.05-0.19%であり、林床被覆率が90%程度と高いことが流出率の低い要因と考えられた[1]。一方、被覆率が10-30%程度である除染地のコナラ林における2016年から3年間の観測では年間0.16-0.84%[2]、林野火災跡地のスギ林における2017年6月から2.5年間の観測では火災発生後の約半年間で2.6%、翌年は年間0.63%であった[3]。この間、台風に伴う豪雨が年間4-6回発生したものの[4]、森林のCs流出率は最大数%であるため、森林がCsを林内に長期的に留める機能は極めて高いと考えられる。本研究では、林内に留まる傾向のCs分布について、コナラ林とスギ林での調査結果を報告する。
調査地は阿武隈山地の生活圏に隣接するコナラ林とスギ林の未除染地を各1地点選定した。降水量平年値(1981-2010年)は、コナラ林とスギ林でそれぞれ1,221mm及び1,465mmであり、樹木密度は791本/ha及び740本/haである。地上130cm高における幹の直径は、コナラ林とスギ林でそれぞれ10-14cm及び25-30cmに最頻値をもつ。スギ林の調査は2015年10月と2017年9月、コナラ林の調査は落葉前の2018年10月に実施した。森林内のCs分布は、林床リターと土壌層を地下部、樹木を地上部として、地下部と地上部のCs存在割合を求めた。
地上部の樹木試料は、幹直径の最頻値を中心として、コナラ林で3本及びスギ林で5本の代表木を選定し伐倒して採取した。伐倒後、葉、枝、樹皮及び材(辺材、心材)に解体し、樹木各部のバイオマスを算出するとともに、乾燥・粉砕後にGe半導体検出器にてCs濃度を測定した。樹木のCs存在量(Bq/m2)は、樹木バイオマスと樹木各部のCs濃度から求めた樹木1本あたりのCs量(Bq/本)に樹木密度(本/m2)を乗じて算出した。
地下部については、林床リターと深度20cmまでの土壌をスクレーパープレートで全量採取し、試料の採取面積、重量及びCs濃度からリター層と土壌各深度のCs存在量(Bq/m2)を算出した。深度20cm以深については、採土円筒を用いて採取した深度10cmごとの土壌試料を乾燥・粉砕後、Ge半導体検出器によりCs濃度を測定し、土壌物理試験で得た土壌かさ密度とCs濃度から土壌各深度のCs存在量(Bq/m2)を算出した。
コナラ林におけるCs存在量の約8割が2018年10月時点で地下部の林床リターと土壌表層に存在し、地下部では1F事故からの経過とともに、リター層から土壌表層にCs存在量の重心が移動していた。スギ林も同様であり、Cs存在量の約9割が2015年10月及び2017年9月時点で地下部に存在し、経年でCs存在量の重心がリター層から土壌表層に移動していた。地上部のスギ立木について2015年と2017年を比較すると、調査地のCs存在量に占めるスギ針葉Csの割合が2.2%から0.6%に低下し、スギ立木全体の4.8%から3.0%への低下量とほぼ同量であった。コナラ立木は1回の調査で経年変化は不明であるが、調査地のCs存在量に占める材Csの割合は1.7%であり、スギ立木の0.3%(2015年10月と2017年9月)に対して比較的高い結果となった。
以上のことは、森林内のCs分布が、地表付近に分布し栄養分の吸収を担う樹木細根の分布と類似することを示す。一方、スギ立木のCs存在量は低下傾向にあり、リターフォール等による樹木からのCs除去が作用し、土壌から樹木細根を介してCsが樹木に移行していたとしても、立木全体のCs量が減少していると考えられる。ただし、コナラ立木とスギ立木では樹木各部のCs分布に差異が認められ、スギ立木の減少傾向が樹種の異なるコナラ立木にも適用可能か継続調査により明らかにする必要がある。
[1] Niizato et al., 2016, J. Environ. Radioact. 161, 11-21.
[2] 渡辺ほか, 2019, KEK proceedings, 2019-11, 114-119.
[3] 新里ほか, 2018, JpGU2018予稿集, HCG27-06.
[4] 気象庁ウェブページ、全国災害時気象概況.
調査地は阿武隈山地の生活圏に隣接するコナラ林とスギ林の未除染地を各1地点選定した。降水量平年値(1981-2010年)は、コナラ林とスギ林でそれぞれ1,221mm及び1,465mmであり、樹木密度は791本/ha及び740本/haである。地上130cm高における幹の直径は、コナラ林とスギ林でそれぞれ10-14cm及び25-30cmに最頻値をもつ。スギ林の調査は2015年10月と2017年9月、コナラ林の調査は落葉前の2018年10月に実施した。森林内のCs分布は、林床リターと土壌層を地下部、樹木を地上部として、地下部と地上部のCs存在割合を求めた。
地上部の樹木試料は、幹直径の最頻値を中心として、コナラ林で3本及びスギ林で5本の代表木を選定し伐倒して採取した。伐倒後、葉、枝、樹皮及び材(辺材、心材)に解体し、樹木各部のバイオマスを算出するとともに、乾燥・粉砕後にGe半導体検出器にてCs濃度を測定した。樹木のCs存在量(Bq/m2)は、樹木バイオマスと樹木各部のCs濃度から求めた樹木1本あたりのCs量(Bq/本)に樹木密度(本/m2)を乗じて算出した。
地下部については、林床リターと深度20cmまでの土壌をスクレーパープレートで全量採取し、試料の採取面積、重量及びCs濃度からリター層と土壌各深度のCs存在量(Bq/m2)を算出した。深度20cm以深については、採土円筒を用いて採取した深度10cmごとの土壌試料を乾燥・粉砕後、Ge半導体検出器によりCs濃度を測定し、土壌物理試験で得た土壌かさ密度とCs濃度から土壌各深度のCs存在量(Bq/m2)を算出した。
コナラ林におけるCs存在量の約8割が2018年10月時点で地下部の林床リターと土壌表層に存在し、地下部では1F事故からの経過とともに、リター層から土壌表層にCs存在量の重心が移動していた。スギ林も同様であり、Cs存在量の約9割が2015年10月及び2017年9月時点で地下部に存在し、経年でCs存在量の重心がリター層から土壌表層に移動していた。地上部のスギ立木について2015年と2017年を比較すると、調査地のCs存在量に占めるスギ針葉Csの割合が2.2%から0.6%に低下し、スギ立木全体の4.8%から3.0%への低下量とほぼ同量であった。コナラ立木は1回の調査で経年変化は不明であるが、調査地のCs存在量に占める材Csの割合は1.7%であり、スギ立木の0.3%(2015年10月と2017年9月)に対して比較的高い結果となった。
以上のことは、森林内のCs分布が、地表付近に分布し栄養分の吸収を担う樹木細根の分布と類似することを示す。一方、スギ立木のCs存在量は低下傾向にあり、リターフォール等による樹木からのCs除去が作用し、土壌から樹木細根を介してCsが樹木に移行していたとしても、立木全体のCs量が減少していると考えられる。ただし、コナラ立木とスギ立木では樹木各部のCs分布に差異が認められ、スギ立木の減少傾向が樹種の異なるコナラ立木にも適用可能か継続調査により明らかにする必要がある。
[1] Niizato et al., 2016, J. Environ. Radioact. 161, 11-21.
[2] 渡辺ほか, 2019, KEK proceedings, 2019-11, 114-119.
[3] 新里ほか, 2018, JpGU2018予稿集, HCG27-06.
[4] 気象庁ウェブページ、全国災害時気象概況.