[HCG28-P05] 化学組成を用いた機械学習による破砕帯活動性評価:取り組み事例の紹介
キーワード:機械学習、破砕帯、化学組成
破砕帯の活動性評価では、上載地層法(幡谷ほか、1992など)の適用が一般的であるが、地下坑道やボーリングで遭遇する破砕帯はその地表への延長部が不明な場合が多く、別の手法が必要である。これまで、(a)現世応力場と破砕帯のずれ方向との不一致、(b)交差切りの法則に基づく非破壊の鉱物脈、岩脈、鉱物の存在、(c)破壊・変形や地下水と岩石が反応した時に生じる変形組織や鉱物の形成温度条件が地下深部の高温環境であること、等を示すことにより、比較的若い地質時代に破砕帯の活動が生じなかったことが示されてきた(原子力規制庁, 2015; 石渡,2016;丹羽ほか、2016;島田ほか,2016など)。これらの評価手法は、現場で適用可能なものとして高度化されてきたが、専門家の間でも評価の曖昧さや不一致をもたらす場合があり、さらなる評価手法開発の余地がある。
開発されるべき手法は、専門的判断の助けとなるような、結果が人に依存せず客観的に導き出されるものであり、実施、普及、検証を一般的な地質技術者が実行可能である必要がある。また、可能な限り非専門家にも理解されやすいことが望ましい。これらの目標に照らして、破砕帯中軸部の断層ガウジの全岩化学組成は魅力的である。地下坑道では工事や安全対策で地質観察時間が限られる場合があるのに対し、全岩化学組成のための試料採取は比較的短時間で済む。将来、広く普及した場合を考えると篤志家からの試料提供の際にも試料採取のハードルが低い。さらに携帯型XRFなどにより非破壊で原位置測定ができる可能性がある。化学分析データは文献等で公開され得る定量データであり、データベースの継続的拡張と繰り返し検証が可能である。では、そもそも活断層と非活断層で断層岩の化学組成に違いがあるのだろうか? この問題を問うに値する解決手段はあるのだろうか?
近年、Kuwatani et al.(2014)は、2011年東北地方太平洋沖地震時の津波堆積物と非津波堆積物の化学組成を用いて、機械学習(多変量解析)により、両者が高い確率で分けられることを示した。我々は、この考え方が解決手段になり得ると考え、活動性が既知である断層の断層ガウジの化学組成の文献値を収集し、多変量解析によって活断層と非活断層を判別する一次式の探索を2018年から開始した。説明変数は量的変数である化学組成、予測する目的変数は質的変数である断層性状(活断層または非活断層)である。成果の詳細については立石ほか(2020)を参照されたい。花崗岩質岩を対象とした検討結果は、活断層と非活断層の2群を判別率100%で分ける判別式が複数存在することを示している。教師データに特化しない汎化性能の高い判別式を探す過程で、2群の判別に大きく寄与する元素が見出されつつある。つまり、活断層を特徴づける元素であり、継続的活動や活動停止に伴う化学組成変化を解く手がかりが得られつつある。発表では、過去の検討事例も含め、現在の取り組み状況を紹介したい。
本報告は経済産業省資源エネルギー庁委託事業「平成31年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(地質環境長期安定性評価技術高度化開発)」の成果の一部である。
文献:原子力規制庁 (NRA), 2015, [URL: http://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11235834/www.nsr.go.jp/data/000124814.pdf] 幡谷ほか (Hataya, R. et al.), 1992, 電中研報告 (CRIEPI Res. Report), U92010. 石渡 明 (Ishiwatari, A),2016,日本地質学会123年学術大会演旨(The 123rd Ann. Mtg. Geol. Soc. Japan), 325. Kuwatani et al. (2014) Scientific Reports,4:7077:1-7077:6. 丹羽ほか (Niwa, M. et al.),2016, 日本原子力学会誌 (Jour. Atom. Energ. Soc. Japan), 58, 167-171. 島田ほか (Shimada, K. et al.), 2016, 日本地質学会123年学術大会演旨 (The 123rd Ann. Mtg. Geol. Soc. Japan), 324. 立石ほか (Tateishi, R. et al.), 2020, JpGU-AGU Joint Meeting 2020.
開発されるべき手法は、専門的判断の助けとなるような、結果が人に依存せず客観的に導き出されるものであり、実施、普及、検証を一般的な地質技術者が実行可能である必要がある。また、可能な限り非専門家にも理解されやすいことが望ましい。これらの目標に照らして、破砕帯中軸部の断層ガウジの全岩化学組成は魅力的である。地下坑道では工事や安全対策で地質観察時間が限られる場合があるのに対し、全岩化学組成のための試料採取は比較的短時間で済む。将来、広く普及した場合を考えると篤志家からの試料提供の際にも試料採取のハードルが低い。さらに携帯型XRFなどにより非破壊で原位置測定ができる可能性がある。化学分析データは文献等で公開され得る定量データであり、データベースの継続的拡張と繰り返し検証が可能である。では、そもそも活断層と非活断層で断層岩の化学組成に違いがあるのだろうか? この問題を問うに値する解決手段はあるのだろうか?
近年、Kuwatani et al.(2014)は、2011年東北地方太平洋沖地震時の津波堆積物と非津波堆積物の化学組成を用いて、機械学習(多変量解析)により、両者が高い確率で分けられることを示した。我々は、この考え方が解決手段になり得ると考え、活動性が既知である断層の断層ガウジの化学組成の文献値を収集し、多変量解析によって活断層と非活断層を判別する一次式の探索を2018年から開始した。説明変数は量的変数である化学組成、予測する目的変数は質的変数である断層性状(活断層または非活断層)である。成果の詳細については立石ほか(2020)を参照されたい。花崗岩質岩を対象とした検討結果は、活断層と非活断層の2群を判別率100%で分ける判別式が複数存在することを示している。教師データに特化しない汎化性能の高い判別式を探す過程で、2群の判別に大きく寄与する元素が見出されつつある。つまり、活断層を特徴づける元素であり、継続的活動や活動停止に伴う化学組成変化を解く手がかりが得られつつある。発表では、過去の検討事例も含め、現在の取り組み状況を紹介したい。
本報告は経済産業省資源エネルギー庁委託事業「平成31年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(地質環境長期安定性評価技術高度化開発)」の成果の一部である。
文献:原子力規制庁 (NRA), 2015, [URL: http://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11235834/www.nsr.go.jp/data/000124814.pdf] 幡谷ほか (Hataya, R. et al.), 1992, 電中研報告 (CRIEPI Res. Report), U92010. 石渡 明 (Ishiwatari, A),2016,日本地質学会123年学術大会演旨(The 123rd Ann. Mtg. Geol. Soc. Japan), 325. Kuwatani et al. (2014) Scientific Reports,4:7077:1-7077:6. 丹羽ほか (Niwa, M. et al.),2016, 日本原子力学会誌 (Jour. Atom. Energ. Soc. Japan), 58, 167-171. 島田ほか (Shimada, K. et al.), 2016, 日本地質学会123年学術大会演旨 (The 123rd Ann. Mtg. Geol. Soc. Japan), 324. 立石ほか (Tateishi, R. et al.), 2020, JpGU-AGU Joint Meeting 2020.