JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG29] 原子力災害被災地の地域復興における科学者の役割

コンビーナ:西村 拓(東京大学大学院農学生命科学研究科生物・環境工学専攻)、溝口 勝(東京大学大学院農学生命科学研究科)、登尾 浩助(Meiji University)

[HCG29-P03] 除染後斜面における放射性セシウムの経時的・空間的輸送

*砂川 優樹1伊東 雄樹2高木 悠輝1本田 隆太3西村 拓4溝口 勝4登尾 浩助3 (1.明治大学大学院農学研究科、2.イスラエル農業研究所、3.明治大学農学部、4.東京大学大学院農学生命科学研究科)

キーワード:放射性セシウム、除染、斜面

2011年3月に発生した福島第一原子力発電所の事故により放射性セシウム (Cs)などの放射性物質が放出され、環境が汚染された。空間線量低減のため、汚染された地域では宅地から水平方向に半径20 mを目安とした除染が行われた。しかし、除染対象範囲に裏山が含まれる箇所では、宅地から半径20 m以遠の斜面上部に未除染地が残存している場合がある。地表面に降下したCsの大部分は土壌表層に存在し、放射性物質の大部分は表面流出水により斜面上部から下部へと移動すると考えられる。したがって、斜面上部の未除染地から斜面下部の除染が実施された区域にかけてCsが表面流出水とともに移動し、再汚染を引き起こすことが懸念される。除染後の斜面において、どれほどの濃度のCsがどの範囲まで移動するかは未解明であり、生活圏に近い裏山の斜面上におけるCsの輸送量を明らかにすることは被災地の復興に重要である。そこで本研究では、除染後の斜面におけるCs 輸送を明らかにすることを目的とした。福島県相馬郡飯舘村北部の除染が実施された宅地の北側の斜面において、2015年4月から2019年11月にかけて、年間に数回にリター層を含む表土(黒ボク土)を採取し、Ge半導体検出器を用いてγ線スペクトロメトリーにより134Csと137Cs濃度を測定した。採取地点は、斜面上部より未除染部、上部、中部、および下部、2016年4月より最下部を設定し、各高度について水平方向に3地点を設定した。降水量とCsの移動量の比較には、気象庁の飯舘アメダス観測点における観測降水量を使用した。積算降水量と積算Cs濃度のグラフの傾きが連動する傾向にあることから、Csは斜面上を表面流出水と共に流下したと推察された。未除染部と上部ではCs濃度の急激な増加が見られたことから、未除染部よりさらに上方の未除染斜面がCsの供給源であると思われる。134Csと137Csの半減期(それぞれ約2年と約30年)を考慮した濃度変化をみると、134Cs濃度は自然減衰で予測される値に収束しつつある。また、積算134Cs濃度のグラフの傾きは時間の経過と共に小さくなったことから、134Csは除染の効果を打ち消すよりも早い速度で地表面から消失していると考えられる。一方で、137Cs濃度は中部以下の高度において自然減衰で予測される値を下回ることが多い。また、下部および最下部では2017年以降の積算137Cs濃度のグラフの傾きが著しく小さいことから、流下した137Cs は、除染の効果を打ち消すほどには下部や最下部に堆積していない事が示された。以上より、対象とした斜面では、除染の効果を打ち消すほどの濃度のCsは下部や最下部まで移動していないことが示された。一方で、下部や最下部におけるCs濃度の変化率は負の値をとる傾向にあることから、Csは斜面表面を下方へと流下しつつ、土壌中を鉛直下方向にも移動した可能性がある。