JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG31] 海岸低湿地における地形・生物・人為プロセス

コンビーナ:藤本 潔(南山大学)、宮城 豊彦(㈱アドバンテクノロジー)

[HCG31-P01] 急激な海面上昇下にあるミクロネシアのマングローブ林で今起こりつつあることー主要群落の地盤高変動とRhizophora stylosa 林の支柱根動態ー

*藤本 潔1小野 賢二2渡辺 信3谷口 真吾3古川 恵太4平田 泰雅5羽佐田 紘大6諏訪 錬平7Saimon Lihpai8 (1.南山大学、2.森林総合研究所東北支所、3.琉球大学、4.海辺つくり研究会、5.森林総合研究所、6.法政大学、7.国際農林水産業研究センター、8.ミクロネシア連邦ポンペイ州政府)

キーワード:マングローブ林、マングローブ泥炭、海面上昇、表層侵食、森林動態

フィリピンからミクロネシアに至る西太平洋低緯度地域では、近年、年10mmを超す速度で海面上昇が進みつつある(IPCC 2013)。一般に土砂流入量が少ないマングローブ立地では、まずRhizophora属群落が成立し、マングローブ泥炭が堆積する。しかし、遷移が進みその優占度が低下した群落では泥炭堆積速度は低下し、海面上昇の影響をいち早く被る可能性が高い。ポンペイ島のRhizophora林では今のところ表層侵食はみられないものの、他の樹種へ遷移した林分では表層侵食が確認されている(藤本 2016)。本発表では、まずポンペイ島の主要群落に設置した侵食/堆積観測杭による地盤高変動について報告する。次にR. stylosaが優占する固定プロット(PR: 20m×50m)における16年間(2003~2019年)のモニタリングデータを用い、森林動態とマングローブ泥炭の生産に影響を及ぼすと考えられる支柱根バイオマスの動態を明らかにする。

侵食/堆積観測杭には直径約5mmのステンレス製の棒を用い、R. stylosaR. apiculataSonneratia albaBruguiera gymnnorhiza各群落内の固定プロット(それぞれ、PR, PC, PS, PK)の海側と陸側に、基盤に達するまで、それぞれ5本ずつ設置した。PK陸側はXylocarpus granatumの板根間に設置した。各プロットの海側と陸側の地盤高変動速度(cm/yr)は、PRが0.76±0.48、0.28±0.34、PCが0.34±0.22、0.23±0.19、PSが‐0.28±0.68、‐0.04±0.36、PKが‐0.42±0.56、0.01±0.14で、Rhizophora 群落で堆積、S. alba海側群落とB. gymnnorhiza群落で侵食傾向が確認された。S. alba陸側群落とX. granatum群落では顕著な傾向はみられなかった。

PRの地上部バイオマスは、R. stylosaの支柱根を除く各部位はKomiyama et al. (1988)、B. gymnorrhizaはKomiyama et al. (2005)の相対成長式を用いて推定した。極めて高密度に発達し、既存の相対成長式を適用できない支柱根バイオマスは以下の手順で推定した。まずPRの海側、中央部、陸側の3か所に5m×5mの方形区を設置し、方形区内の全支柱根の長さと直径を測定し体積を求める。測定にあたっては、木化した硬根と、まだ木化していない軟根に分類した。次に、それぞれの支柱根体積にそれぞれの容積密度を乗じて支柱根バイオマスを算出した。PRの合計地上部バイオマスは2003年の235t/ha(Rs: 212t/ha, Bg: 23t/ha)から2019年には327t/ha(Rs: 304t/ha, Bg: 23t/ha)へ増加した。このうちR. stylosaの支柱根バイオマスは2003年の120t/haから2019年には198t/haに増加した。この間軟根は2t/haから41t/haへコンスタントに増加したのに対し、硬根は2011~2015年の間に137t/haから87t/haに一旦減少し、2019年には158t/haへ再び増加した。2011~2015年の間は、硬根の減少に伴い合計支柱根バイオマスも一時的に減少した。R. stylosa林では、近年の急速な海面上昇に対して新しい支柱根をより多く生産することで、マングローブ泥炭の堆積速度を速め地盤高を維持しようとしている可能性を指摘できる。

参考文献:Komiyama et al. 1988. In Ogino & Chihara eds. Biological system of mangroves, 97-117. Komiyama et al. 2005. J. Tropical Ecology 21: 471-477. 藤本 潔 2016. 日本地理学会発表要旨集 90: 101. IPCC 2013. http://www.ipcc.ch/report/ar5/wg1/