[HCG33-P03] 大阪府を対象とした巨大地震による生命・健康被害の評価
キーワード:自然災害起因の産業事故、南海トラフ地震、障害調整生存年、間接被害、地震発生後の健康被害
巨大地震の発生時には、i)地震発生直後に発生する建物の倒壊や津波による被害、ii)事業所から流出した化学物質の急性暴露による健康被害、iii)ライフラインの被災の影響による医療機能の低下、と発生時期が異なる被害が発生する。そのため、地震発生後の被害を最小限に抑えるための対策を講じるうえで、これらの人的被害を一連の事象の流れで考慮する必要がある。本研究では南海トラフ巨大地震発生時の人的被害を上記の3種類に絞り、地震発生直後から回復期までの被害の継続期間によって生じるヒト健康影響を、時系列かつ定量的に評価することを目的とした。
本研究では、津波被害を受けた事業所一カ所から対象地域内へ化学物質が流出した場合の急性暴露による健康被害を考慮した。そこで、大阪市の中でPRTR(Pollutant Release and Transfer Register)の届出対象である揮発性の化学物質の年間使用量が最も多い事業所が所在する地区である此花区を対象地域とした。
建物の倒壊による死傷者数について、内閣府が公表している南海トラフ巨大地震の震度データおよび被害の算出方法を用いることで建物の倒壊数とそれに伴う死傷者数を算出した。また、津波による死傷者数は、対象地域で指定されている津波避難場所を避難先として使用し、その建物への避難の可否を判定することで算出した。
被災した対象事業所からは事業所内で最も取扱量が多いトルエンが流出することを仮定し、事業所が津波の被害を受けた直後に年間取扱量の2週間分が全量一気に流出するとした。曝露シナリオとして、流出後に揮発したトルエンが、津波避難場所の屋上に避難が完了した後に大気から曝露することを仮定した。また、トルエン流出後の動態の解析にはCAMEO-ALOHA を使用し、化学物質の濃度変化を確認した。ヒト健康影響の評価として急性暴露ガイドラインレベル(AEGL, Acute Exposure Guideline Level)を用い、曝露したトルエンの濃度が基準を超過した場合に健康被害が発生するとした。
上記2種類の人的被害が、ライフラインの被災の影響を考慮した治療対応によってどれだけ緩和されるかを一日ごとに算出した。ここで、治療対応を一度行うことで重症であっても完治するという仮定を置いた。そして、一日ごとの傷病者数の推移を障害調整生存年(Disability Adjusted Life-Years: DALY)に換算した。DALYはある集団において障害や早死によって失われた期間を示す指標の一つであり、YLL(早死損失年数)とYLD(障害共存年数)の合計である。
地震発生後の津波、建物の倒壊、化学物質による人的被害のDALYの合計値は対象地域全体でそれぞれ1.30E+08、4.12E+04、5.16E+03[日/日]となった。YLLでみた死者のDALYは被害者数がいずれの被害よりも多く、障害度も大きいことから他の被害のDALYと比べて遥かに大きな値となった。また、YLDである化学物質による人的被害について、一度の治療対応で完治するという仮定を置いたにもかかわらず一日当たりのDALYの値が0になるまでに地震発生から7日を要した。これより、化学物質が全量流出した場合は対象地域内で医療機能を超える甚大な被害が発生すると言える。このように、対象地域や医療機能の低下、建物の耐震性能の低さ、震度や津波浸水深の違いなど条件を変更した場合の人的被害への影響の大きさをDALYの推移によって確認することができた。
巨大地震発生直後、津波から避難が完了した後、地震発生から回復期までの異なる期間に発生する3種類の人的被害を同一指標で評価する手法を構築した。また、本研究の対象地域内では地震発生直後の負傷者に対する医療機能が十分に備わっており、化学物質由来の重症者のみ数日間治療対応ができない状態が続くことが分かった。
今後の課題としては、対象地域に来訪する観光客が受ける被害も考慮することが挙げられる。
本研究では、津波被害を受けた事業所一カ所から対象地域内へ化学物質が流出した場合の急性暴露による健康被害を考慮した。そこで、大阪市の中でPRTR(Pollutant Release and Transfer Register)の届出対象である揮発性の化学物質の年間使用量が最も多い事業所が所在する地区である此花区を対象地域とした。
建物の倒壊による死傷者数について、内閣府が公表している南海トラフ巨大地震の震度データおよび被害の算出方法を用いることで建物の倒壊数とそれに伴う死傷者数を算出した。また、津波による死傷者数は、対象地域で指定されている津波避難場所を避難先として使用し、その建物への避難の可否を判定することで算出した。
被災した対象事業所からは事業所内で最も取扱量が多いトルエンが流出することを仮定し、事業所が津波の被害を受けた直後に年間取扱量の2週間分が全量一気に流出するとした。曝露シナリオとして、流出後に揮発したトルエンが、津波避難場所の屋上に避難が完了した後に大気から曝露することを仮定した。また、トルエン流出後の動態の解析にはCAMEO-ALOHA を使用し、化学物質の濃度変化を確認した。ヒト健康影響の評価として急性暴露ガイドラインレベル(AEGL, Acute Exposure Guideline Level)を用い、曝露したトルエンの濃度が基準を超過した場合に健康被害が発生するとした。
上記2種類の人的被害が、ライフラインの被災の影響を考慮した治療対応によってどれだけ緩和されるかを一日ごとに算出した。ここで、治療対応を一度行うことで重症であっても完治するという仮定を置いた。そして、一日ごとの傷病者数の推移を障害調整生存年(Disability Adjusted Life-Years: DALY)に換算した。DALYはある集団において障害や早死によって失われた期間を示す指標の一つであり、YLL(早死損失年数)とYLD(障害共存年数)の合計である。
地震発生後の津波、建物の倒壊、化学物質による人的被害のDALYの合計値は対象地域全体でそれぞれ1.30E+08、4.12E+04、5.16E+03[日/日]となった。YLLでみた死者のDALYは被害者数がいずれの被害よりも多く、障害度も大きいことから他の被害のDALYと比べて遥かに大きな値となった。また、YLDである化学物質による人的被害について、一度の治療対応で完治するという仮定を置いたにもかかわらず一日当たりのDALYの値が0になるまでに地震発生から7日を要した。これより、化学物質が全量流出した場合は対象地域内で医療機能を超える甚大な被害が発生すると言える。このように、対象地域や医療機能の低下、建物の耐震性能の低さ、震度や津波浸水深の違いなど条件を変更した場合の人的被害への影響の大きさをDALYの推移によって確認することができた。
巨大地震発生直後、津波から避難が完了した後、地震発生から回復期までの異なる期間に発生する3種類の人的被害を同一指標で評価する手法を構築した。また、本研究の対象地域内では地震発生直後の負傷者に対する医療機能が十分に備わっており、化学物質由来の重症者のみ数日間治療対応ができない状態が続くことが分かった。
今後の課題としては、対象地域に来訪する観光客が受ける被害も考慮することが挙げられる。