JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS08] 津波とその予測

コンビーナ:対馬 弘晃(気象庁気象研究所)、久保田 達矢(国立研究開発法人防災科学技術研究所)

[HDS08-01] 南海トラフにおける新たな海底地震津波観測網N-net

*青井 真1武田 哲也1功刀 卓1植平 賢司1篠原 雅尚1棚田 俊收1永田 茂1三好 崇之1高橋 成実1 (1.国立研究開発法人防災科学技術研究所)

キーワード:N-net、南海トラフ地震、地震観測、津波観測、海底地震津波観測網、即時予測

阪神・淡路大震災を契機に設置された地震調査研究推進本部(以下、地震本部)の定めた基盤的調査観測計画のもと、2000年代初頭には防災科学技術研究所(以下、防災科研)により陸域の基盤観測網が構築された。また、東日本大震災では海域での観測が十分ではなかったことが津波警報や緊急地震速報の過小評価につながり、多くの人命が失われた原因の一つとされ、海域における観測の充実のため東日本の太平洋沖に日本海溝海底地震津波観測網(S-net)が構築されるとともに、熊野灘から紀伊水道沖における地震・津波観測監視システム(DONET)の構築が加速された。これらの観測網は防災科研によりMOWLASとして統合的に運用されており、稠密かつ高品質なデータの取得が可能となった。
しかしながら、南海トラフ巨大地震の想定震源域の西半分である高知県沖から日向灘にかけての海域は観測の空白域である。この空白域を解消するため、文部科学省による補助事業として防災科研は南海トラフ海底地震津波観測網(N-net: Nankai Trough Seafloor Observation Network for Earthquakes and Tsunamis)を構築することとなった。N-netは、震源域近傍において津波及び地震動を観測することで津波や地震動の即時予測の迅速化及び高精度化を可能とするとともに、海域における地震活動などのモニタリングを通したプレート間の固着やすべり状況の時空間変化をはじめとする震源域における現象の詳細かつ逐次的な把握・予測の高度化を目的としており、観測結果やそれにもとづく情報の利活用を推進し社会に還元することで、巨大地震の被害軽減に結び付けることを目指している。
N-netは高知県と宮崎県に設置する陸上局をつなぐ沿岸システムと沖合システムの2つのシステムからなり、各システムでは18点の観測点が約700 – 800 kmの光海底ケーブルに接続され、計36観測点が設置される。S-netが採用しているインライン方式では基幹ケーブルに割り入れる形で観測装置が設置されており、ケーブル敷設船で敷設することができることから広域に比較的安価に敷設することができる。一方、DONETで採用されているノード方式では、ケーブル敷設船で敷設した基幹ケーブルから分岐ノードを介して分岐された先に設置された拡張分岐ノードにROV(Remotely Operated Vehicle:遠隔操作型無人機)を用いて観測ノードを設置する方式であり、拡張性に優れている。N-netでは、インライン方式を基本としつつ、ノード方式の拡張性も備えたハイブリッド方式を採用している。それぞれの観測点には、津波を観測するための水圧計と、地震を観測するための加速度型強震計と短周期の速度計が、冗長性を確保するために各2式インスト-ルされる。N-netの構築により、津波と地震の直接的な検知がそれぞれ最大で20分、20秒程度早まることが期待される。観測されるデータはリアルタイムで気象庁に伝送され、津波警報や緊急地震速報に活用される計画である。本発表では、防災科研が南海トラフにおいて新たに構築を進める海底地震津波観測網N-netを紹介する。