JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS08] 津波とその予測

コンビーナ:対馬 弘晃(気象庁気象研究所)、久保田 達矢(国立研究開発法人防災科学技術研究所)

[HDS08-02] 南海トラフ大地震に伴う津波の確率論的ハザード評価

*平田 賢治1藤原 広行1中村 洋光1大角 恒雄1森川 信之1河合 伸一1前田 宜浩1土肥 裕史1松山 尚典2遠山 信彦2鬼頭 直2大嶋 健嗣2張 学磊2村田 泰洋3齊藤 龍3渋木 智之3秋山 伸一4是永 眞理子4阿部 雄太4大野 哲平4 (1.防災科学技術研究所、2.応用地質、3.国際航業、4.伊藤忠テクノソリューションズ)

キーワード:津波、確率論的津波ハザード評価、超過確率、南海トラフ、南海地震

南海トラフでは、1707年宝永地震(M8.6)、1854年安政東海地震(M8.4)、1854年安政南海地震(M8.4)、1944年昭和東南海地震(M7.9)、1946年昭和南海地震(M8.0)等が繰り返し発生し津波の被害が生じている。地震調査委員会は、その長期評価で、南海トラフの沈み込み帯を、トラフ軸方向に6つ、プレート沈み込み方向に浅部、中部、深部の3つ、計18領域に分割し、領域の組合せ方によって震源域や発生様式の多様性を表現できると考えるとともに、次の地震サイクルでの南海トラフ地震の地震規模をM8からM9クラス(地震調査委員会、2013)、そして今後30年間(2020年1月1日起点)の発生確率を70%から80%と評価した(地震調査委員会、2020a)。同長期評価に基づき、本年1月、地震調査委員会(2020b)は、M9を超える最大クラスの地震を除くプレート間地震に伴って発生する津波の確率論的評価を公表した。

今回、我々は、基本的に地震調査委員会(2020b)の評価方法・考え方を踏襲したうえで、さらに地震調査委員会(2020b)が評価対象から除外した最大クラスの地震等も考慮し、南海トラフ沿いの大地震に伴う津波の確率論的評価を試算したので報告する。

まず地震調査委員会(2020b)の確率論的津波評価の方法の主なポイントを概観する。同委員会は、長期評価が示した18領域の組合せで震源域および震源域パターンの多様性を表現することとし、津波レシピ(地震調査委員会,2017)に基づき、79種類の震源域および2,720種類の特性化波源断層モデル、ならびに176通りの震源域パターン(震源域の組合せパターン)および348,345通りの地震パターン(特性化波源断層モデルの組合せパターン)を構築した。1つの震源域パターンを構成する最大の震源域が走向方向に、3セグメント以下のものをグループIの地震群、4セグメント以上をグループIIの地震群と定義した。グループIの地震群は東海地域と南海地域の少なくとも2地域が独立の地震として破壊する場合を、グループIIの地震群は東海地域と南海地域が同時に破壊する場合を表現している。過去の地震発生履歴から、グループIとグループIIの地震群の重み(相対的発生確率)配分を2:1と設定した。

本研究では、地震調査委員会(2020b)が構築した震源域群や波源断層モデル群等に加え、同委員会が除外した最大クラスの地震に対応するグループIIIの地震群および断層上端がトラフ軸に達している場合超大すべり域を持つ特性化波源断層モデルも考慮することにより、83種類の震源域および3,480種類の特性化波源断層モデル、ならびに180通りの震源域パターンおよび916,669通りの地震パターンで、地震の多様性を表現した(鬼頭・他、本大会)。次に、すべての特性化波源断層モデルに対して、Okada(1992)とTanioka&Satake (1996)の方法を用いて初期水位を計算、最小50m間隔の陸上・海底地形データのネスティング・グリッドを用いて、移流項、海底摩擦項、全水深項を含む非線形長波方程式に、陸側に遡上境界条件、海側に透過条件を課し、差分法を適用して津波予測計算を実施、海岸でのすべてのハザード評価地点(計416,297点)に対して最大水位上昇量を計算した(齊藤・他、本大会)。最大クラスの地震に対応するグループIIIの地震群に対する重み配分に関しては、「全国地震動予測地図2014年版」(地震調査委員会、2013)の考え方を採用し、グループI+グループIIの地震群に対するグループIIIの地震群の重みを20:1と設定した。それ以外の重み配分およびハザードカーブ推定の考え方等については阿部・他(本大会)を参照されたい。

最大クラスの地震等を考慮した確率論的津波ハザード評価によって推定された30年超過確率は、基本的に最大クラスの地震等を除外した地震調査委員会(2020b)のそれと空間的な分布に大きな違いはない。しかし、例えば、海岸の最大水位上昇量が3mを超える30年超過確率は、最大クラスの地震等を除外した場合に比べて、九州から房総半島にかけての太平洋岸で、平均で約1%、最大で約3%高くなり、伊豆・小笠原諸島では平均で約2%、最大で約4%高くなる(阿部・他、本大会)。ただし、最大クラスの地震に対応するグループIIIに設定した重み配分の科学的根拠は弱く、その認識論的不確定性を検討したところ、重み配分の影響は無視できないほど大きいことが確認された。最大クラスの地震に与えるべき重み(相対的発生確率)に関するさらなる調査・研究が必要である。

本研究は防災科学技術研究所の研究プロジェクト「ハザード・リスク評価に関する研究」の一環として実施した。