JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS08] 津波とその予測

コンビーナ:対馬 弘晃(気象庁気象研究所)、久保田 達矢(国立研究開発法人防災科学技術研究所)

[HDS08-04] プレート境界におけるランダム不均質断層すべり分布による津波波高の統計的性質

*中野 優1Murphy Shane2縣 亮一郎1五十嵐 康彦3岡田 真人3堀 高峰1 (1.独立行政法人海洋研究開発機構、2.Ifremer, France、3.東京大学 新領域創成科学研究科)

キーワード:南海トラフ、津波即時予測、シナリオ地震

南海トラフでは約100年から150年の周期で巨大地震が発生する事が知られており、近い将来の再来と強震動および津波による広域被害が懸念されている。巨大地震による被害の軽減を目的として、海域への地震津波観測網の設置と強震動および津波の即時予測システムの構築と導入が進められてきた。

津波即時予測システムの方式は大きく二つに分けられ、(1) 地震、津波観測データのインバージョンにより震源、波源を推定し、沿岸における津波を予測する方法(例えば Tatehata 1997; Tsushima et al. 2009)、(2) シナリオ地震に基づく津波データベースと津波観測データから直接沿岸の津波を予測する方法(例えばBaba et al. 2016; Igarashi et al. 2016; Yamamoto et al. 2016)がある。後者は実装がシンプルであり高速であるというメリットがある一方、予測精度はシナリオ地震の多様性に依存すると考えられる。これまでの実装では、震源断層として平面矩形断層の一様すべりが用いられてきた。一方、実際の地震は非平面断層における不均質すべりであり、震源域が同じでも、すべり分布によって津波波高の分布が異なると考えられる。

将来の地震で予測されるすべり分布を作成し、シナリオに加えることで、シナリオ地震に基づく津波即時予測システムの精度向上が期待できる。シナリオ地震は実際の地震を良く近似する断層面とすべり分布を仮定するのが良いが、将来の地震のすべり分布を正確に予測するのは現時点では困難である。そこで本研究では、プレート形状モデルを用いた非平面断層における、不均質すべり分布をランダムに生成する手法を構築した。すべり分布をランダムに多数生成することにより、将来起きうる地震の不確定性に対応する。本研究ではさらに、不均質すべりの導入によって、これまで広く用いられてきた一様すべりを用いた予測との違いを評価するため、想定東南海地震をテストケースとしてシナリオ地震を生成し、沿岸の津波を計算、津波のピーク波高の各サイトでの統計的性質を調べた。

プレート境界など長期的に繰り返し地震が起きる断層において、地震のすべり分布は毎回異なるが、長期間の平均的なすべり分布は断層面の固着率等に応じた分布になると考えられる。この仮説に基づき、確率的に不均質断層すべりを生成する手法として、slip probability density function(SPDF, Murphy et al., 2016)を導入する。この手法では、あらかじめ与えられたすべり確率分布(SPDF)に応じて不均質なすべり分布をランダムに生成する。すべり分布はk-squareスケーリング則に基づき生成する。個々の地震のすべり分布は異なるが、多数回の平均はSPDFに比例したすべり分布に収束する。本研究ではSPDFがYokota et al. (2016) による滑り遅れ速度(SDR)に比例すると仮定した。東南海地震を想定し、Mw=8.2のシナリオ地震を200ケース生成し、各シナリオ地震による理論津波をJAGURSプログラム(Baba et al. 2014)によって計算した。

南紀白浜から御前崎の沿岸における津波ピーク波高の統計を調べた結果、同じサイトでもシナリオによって3倍~最大10倍程度変化する事が分かった。各サイトのピーク波高はガウス分布で良く近似できる。ピーク波高の特に大きな変化は極端イベントによって実現されており、変化の大きなサイトは今回設定した震源域や生成したすべり分布に依存すると考えられる。従って、今回の試行で波高ピーク値の変化が比較的小さかったサイトでも、今後シナリオを増やすことでピーク波高の変化が大きくなる可能性がある。

次に、今回設定した震源域での一様すべりの場合と超過確率50%のピーク波高を比較した。ほとんどのサイトでは、不均質すべりによるピーク波高は一様すべりの場合よりも50%以上の確率で高くなる。サイトによってはほぼ全てのシナリオで一様すべりよりもピーク波高が高くなる。この結果は津波予測において、不均質すべりを考慮することが重要であることを示している。

謝辞:この研究は戦略的創造研究推進事業CREST「大規模・高分解能数値シミュレーションの連携とデータ同化による革新的地震・津波減災ビッグデータ解析基盤の創出」の助成を受けたものです。