[HDS09-13] 広島県南部の流紋岩において2018年7月豪雨により生じた斜面崩壊の地質的要因
キーワード:斜面崩壊、熱水変質、粘土細脈、高田流紋岩類
2018年7月の西日本豪雨災害では,広島県南部の高田流紋岩を基盤とする地域で数多くの崩壊・土石流が生じた.本研究では,高田流紋岩地域における斜面崩壊の地質的要因を明らかにするために,広島県南部の呉市二級峡から安浦町赤向坂までの西南西‐東北東方向に伸びる長さ10 km,幅3 kmの地域について,GISを用いた雨量・崩壊密度の解析と道路沿いの露頭や斜面崩壊の観察を行った.レーダーアメダス解析雨量によれば,この地域の崩壊発生時刻(7月7日5–6時頃)までの45時間の積算雨量は550–750 mmであり,4時間雨量は120–180 mmであった.その雨量の分布は,調査地域の東部と西部でほぼ同じであった.空中写真判読により作成した崩壊源の分布によれば,東部の崩壊密度は10–45 /km2であり,それは西部の約10倍の頻度と算出された.よって,崩壊密度の差異は,流紋岩の地形・地質構造によるものと考えられる.調査地の主な流紋岩(野呂山溶結凝灰岩)には,0.5-3 m間隔で高角の節理が発達しており,多数の熱水変質脈や岩脈を伴う.地表付近の変質脈では,白色のハロイサイトの細脈が青,黄色あるいは赤色の粘土に富む風化変質した流紋岩中に生じている.熱水変質脈は幅0.2-5 mで高角を示し,南北系の脈が卓越する.そのように変質した流紋岩は尾根部の20°以下の緩傾斜地の一部にみられた.その分布面積と変質程度は,東部の方が西部よりも大きいことが明らかとなった.現地調査した多くの崩壊源の大きさは,長さ10–20 m,幅5–10 mであり,崩壊物質が変質脈上の厚さ約1 mの土層であることが観察された.崩壊源の下端の位置は,斜面中腹の遷急線にあり,変質脈と硬質岩盤との境界に一致していた.加えて,高角の粘土細脈の存在と貫入試験の結果はその境界面が高角であることを示唆する.以上の結果から,この地域の流紋岩の斜面崩壊は熱水変質の著しい東部で群発したと考えられる.