JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS09] Landslides and related phenomena

コンビーナ:千木良 雅弘(京都大学防災研究所)、今泉 文寿(静岡大学農学部)、王 功輝(京都大学防災研究所)

[HDS09-P11] 2018年西日本豪雨による花こう岩・流紋岩山間地域における崩壊-土石流地形変化の特徴と災害軽減への示唆―写真測量に基づく定量的検討事例報告

*須貝 俊彦1KUNNGA MERGEN1佐々木 夏来1長谷川 紗子1内山 庄一郎2 (1.東京大学大学院新領域創成科学研究科自然環境学専攻、2.防災科学技術研究所)

キーワード:崩壊、クレバススプレー、全国網羅高精細地形分類図、河川セグメント、写真測量

2018年西日本豪雨災害では、非常に広域で崩壊が生じた。本発表では、広島県の流紋岩地域と花こう岩地域での災害事例を取り上げ、現地調査と写真測量を実施し、災害発生前後の地形変化を高精細に推定するとともに、発災地域周辺の地形分類と河川リーチ/セグメント区分(Kirstieほか2013など)を行い、2018年の地形変化とローカルな地形発達史との関係を考察した。

流紋岩地域では、東広島市黒瀬町黒瀬学園地区の2つの対照的な崩壊事例(E, W)を取り上げた。事例Eでは、谷頭崩壊土砂は、土石流となって既存の明瞭な谷地形を下刻しつつ流下し、数基の砂防堰堤の右岸と左岸を交互に破損後、山麓に達した。土石流は、下面で泥炭質細粒層をわずかに削剥し、側面で古い土石流堆積物を削剥しつつ、2m前後の層厚で堆積し、巨礫(損壊した堰堤ブロックと巨大コアストン)を最上部に載せ、大局的には上方粗粒化構造を示した。倒流木は巨礫の上流側に横向きに密集して堆積した。土砂は両岸に乗り上げ、土砂の移動・堆積域の横断幅は30m前後から3倍程度に広がり、ラッパ状を呈した。事例Wでは、谷頭崩壊土砂は、浅く不明瞭な谷ぞいに、土壌層を薄く剥がしてシート状に流下し、移動層の下部には赤色化したC層を残しつつ、山麓の堆積域に漸移した。事例Eと比べて、堆積土砂は薄層で、細粒分に富み、流木の向きが土砂の堆積面の傾斜方向と一致する傾向にあった。土砂移動域の横断幅は50m程度で一定しており、下流へ広がらなかった。黒瀬地区のように、赤色風化殻が発達し、開析が進んでいない流紋岩山地斜面において、谷地形の不明瞭な斜面は、未曽有の大雨によって大規模な面的削剥が生じること、明瞭な谷地形では、より頻繁に土石流が流下し、谷が成長してきたことが示唆された。

花こう岩地域では、熊野町川角、広島市安芸区矢野東、坂町小屋浦および坂東の各地区を取り上げた。川角と矢野東は、土石流扇状地面と麓屑面を開発した新興住宅地であり、開発前には複数の谷が合流していたと推定される。各谷の現谷口から崩壊源までの距離は約0.5㎞と短く、谷口における水系次数は2次と低次で、谷口の下流に巨礫を含む土砂が堆積した。小屋浦と坂東は、多数の崩壊源を持つ、やや大面積の流域の谷口から河口にかけての沖積低地に立地し、谷口における水系次数は5次であった。河川は、谷口を境に(1)上流側の網状流・側方侵食セグメント(勾配8%程度以上)と(2)下流側の潜在的網状流・堆積セグメントに分かれ、(2)はさらに(2a)谷口に近い土石流扇状地セグメント(勾配6%前後)と(2b)河口に近い扇状地状三角州セグメント(勾配4%程度以下)に細区分された。(2a)セグメントは河岸湾曲部を破壊して網状流路を新たに出現させた箇所(クレバススプレー)を含む一方、(2b)セグメントでは直線化された人工河道の両岸に真砂と泥が越流し面的に堆積した。山地斜面長が短く、急勾配の低次谷が迫る山麓緩斜面を造成した土地は、現谷口はもとより、造成前の谷部はハイリスクである。流域が広く、高次の谷が下流に土石流扇状地~扇状地状三角州を形成している場合、豪雨によって土石流が扇状地部まで頻繁に到達し得るので、セグメント(1)の河岸地は土地利用に適さず、(2a)の人工固定された河道屈曲部の外衝側はとくに危険である。

以上をまとめると、ローカルな地形場の条件の多様性や、それを生みだした地域地形発達史の差異を詳細に評価することが、災害軽減のために必須である。それゆえ、ローカルな地形発達史にもとづく高精細な地形分類図を全国的に整備していくことが今後必要であり、そのためには、2018年の水害・土砂災害の教訓をさらに学ばなければならない。