JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS09] Landslides and related phenomena

コンビーナ:千木良 雅弘(京都大学防災研究所)、今泉 文寿(静岡大学農学部)、王 功輝(京都大学防災研究所)

[HDS09-P15] 大規模崩壊前の空中写真判読による長期的な山体重力変形の検出の試み —日本の紀伊半島における2つの大規模な急速地すべりの事例研究—

*菊地 輝行1大八木 規夫2金子 誠2崎田 晃基3秦野 輝儀4 (1.株式会社開発設計コンサルタント、2.公益財団法人深田地質研究所、3.岡山大学大学院、4.電源開発株式会社)

キーワード:地すべり・崩壊、重力変形、空中写真、変形構造

1. はじめに
平成23年の紀伊半島豪雨では,数10万m3の大規模な岩体が,短時間で崩壊する深層崩壊が発生した.これらの深層崩壊は,地形解析や現地調査が実施され崩壊メカニズムが検証された(Chigira,2013)など.着目点は,崩壊前の地形図から末端崩壊,不規則凹凸,ガリーが確認されていることである.これらの地形的特徴は重力変形を示すもので,長期間におよび変形が進行していると推測できる.このような重力変形現象を時系列的にとらえることは,今後の深層崩壊現象の予察に役立つと考える.本研究では,紀伊半島豪雨で崩壊した赤谷の深層崩壊に対して,1948~2012年間の6時期の空中写真の判読を行った.その結果,定性的ではあるが経年的な変形の進行が認められたので報告する.

2. 解析手法
対象地は,米軍,国土地理院や奈良県撮影による空中写真が2011年9月の災害前後,継続的に撮影されている.これらの64年間にわたる斜面の経年変化を追跡判読することで、羽田野(1986)の時系列比較判読が可能である.判読に用いた画像の一覧1948年11月,1976年6月,1994年5月,2004年5月,2011年4月,2012年5月の6回である.

3. 判読結果
3.1 赤谷
赤谷地点の判読結果から時系列な発達過程を推定した.各領域の輪郭は必ずしも明瞭ではないが,領域Cにおける赤谷の攻撃斜面の崩壊や,領域Aの滑落崖付近の変形の影響による植生の変化は明らかである.このような部分的な変動の進行は,地すべりの発達過程の進行中の段階であると考える.このような斜面の変形ステージは,対象斜面の一部に小さい変形が生じているが,変動部分全体がまだ基岩から分離していない漸移期後期に位置する.すなわち,全体の輪郭となる構造がまだ形成されていない重力変形が明瞭化し,不規則凹凸・小崖地形・末端崩壊が顕著な特徴を有している.
時系列経過を以下に述べる.領域Aの変形荷重は,主に領域Cの支持力に依存する状態であった.そのため,領域Cでは領域Aからの応力を受け,変位・変形が進行すると考えられる.領域Aの変形は,1948年,1994年では,滑落崖が存在するのみであるが,2011年になって明瞭な間隙が確認できた.

3.2 長殿谷
長殿谷の崩壊における移動体は等価摩擦係数から,あまり流動性がなく、対岸斜面に衝突停止しており長殿谷の流下も少ない。残存する移動体の中央部分が盛り上がった蒲鉾状の形態を呈している.移動体は滑落によっても著しい擾乱は受けていないと考えられる。その理由はこれら4方向の断裂系は崩壊源内に露出した基岩、あるいは周囲の森林における線状組織が認められるためである。 移動体が大きな擾乱を受けずに滑落したことから、この崩壊は構造的には流れ盤すべりであったと推定される。
時系列経過を以下に述べる.1976年は、領域DおよびCに新たな小崩壊が発生していることが判読出来る。しかし、その他の領域で変形は確認できない.1994年は、領域DおよびCでさらに崩壊が拡大し、Dの堆積域には新しい斜面安定化工が施工されている。背後の領域Eの滑落崖に当たる部分が比高数mで左右に断続的な裸地が認められる.領域Aの下部で長殿谷河床から奥行60m±付近、および、領域F1の同じく奥行160m付近にはやや明瞭な弧状の亀裂が判読出来る。

4. 結論
大規模崩壊の発生場所の予測を目的として、赤谷の崩壊を災害前の5時期に撮影された空中写真を用いて、時系列比較判読をおこなった。その結果、ある程度の変位・変形が進行中であったことが明らかになった。今後は、地域的にも時間的にも調査範囲を広げ発達過程を明らかにするとともに,航空レーザ計測データなど定量的な手法との整合性を試みる.
研究における崩壊前の地形図は,近畿地方整備局紀伊山地砂防事務所が所有する航空レーザ計測データを用いました.貴重なデータを提供いただき心より感謝いたします.

Chigira, M., Tsou, C.-Y., Matsushi, Y., Hiraishi, N., and Matsuzawa, M.(2013) Topographic precursors and geological structures of deep-seated catastrophic landslides caused by Typhoon Talas,Geomorphology vol.201, pp.479-493.
羽田野誠一・大八木規夫 (1986) 斜面災害の発生しやすい場所 (場所の予測) -地形的位置. 高橋・大八木他 (編) : 斜面災害の予知と防災, 白亜書房, 526p.
菊地輝行・秦野輝儀・西山哲(2019):平成23年台風12号における崩壊・非崩壊地に関する地形的特徴の検証,地すべり学会誌,Vol.56,No.4,pp.141-152.
大八木規夫(2018):「地すべり地形の判読法-空中写真をどう読み解くか-」増補版, 近未来社, pp.9-22.