JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS12] 湿潤変動帯の地質災害とその前兆

コンビーナ:小嶋 智(岐阜大学工学部社会基盤工学科)、八木 浩司(山形大学地域教育文化学部)、内田 太郎(筑波大学)、苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)

[HDS12-P03] 長野県徳本峠北東方山地斜面の重力変形

*永田 秀尚1小嶋 智2 (1.有限会社風水土、2.岐阜大学工学部社会基盤工学科)

キーワード:精細DEM、重力変形、地質構造規制、岩盤ゆるみ、地形発達史

長野県上高地,徳本峠北東方の稜線上には,蝶ヶ岳にかけて約12kmにわたって多重山稜,線状凹地がほぼ連続する.徳本峠から徳沢にかけての山地斜面について,航空レーザ測量によって得られた精細DEMに基づいた地形判読を行い,地表地質調査や別に報告する凹地内堆積物の解析と併せて山地の地形発達史を考察した.

地形判読の結果,重力変形を示唆する線状凹地,山向き小崖,斜面内小段といった微地形が広く発達することが明らかになったが,その分布は北東-南西方向に伸びる稜線をはさんで非対称であり,北西向き斜面で広く,南東向き斜面で狭い.この傾向は,重力変形が美濃帯の地質構造に規制されて形成されたものであることを示している.ただし,詳細にみると,東西方向から南北方向まで屈曲する稜線に調和的に重力変形微地形が発達し,また北西-南東方向に派生する尾根付近にも変形が認められることから,地形の主要な骨格ができあがってから重力変形が始まったことになる.

地表踏査によって岩盤の構造とゆるみ状態を調査すると,地層の層理面はほぼ北東-南西走向で北西に急傾斜する構造をもつことが明らかになった.ただし,梓川に面する山脚部では東に急傾斜する傾向がある.岩盤のゆるみは稜線に近い高標高部や山脚部で大きい.また,ゆるんだ岩盤ほど層理面が低角度ないし東傾斜となっている.このことは,岩盤が重力的に座屈ないし流動的に変形していることを示唆する.顕著な岩盤のゆるみは谷底レベルまででほぼ留まっているものと考えられるが,それでもその深度は100mを越える.

本地域ではまた,幅数百m,比高数十mに達する馬蹄形の地すべり崖もしばしば発達する.しかし,この場合にも末端の隆起などは認められない.すなわち,岩盤のゆるみによって生じたほとんどの重力変形体は基岩から分離した地すべり移動体とはならず,地すべり面が連続的に形成される前に,より小規模な規模での表層の岩盤崩壊に移行してしまったものと推定される.
重力変形による微地形はいわゆる「後氷期開析前線」より下方の斜面にも発達していることから,変形は最終氷期極相期以降には開始されていたものと考えられる.12.4kaにアカンダナ火山の噴出物でせき止められる前は梓川が深い峡谷をなしていたことがわかっており,稜線までの比高が大きいこの時期には重力変形が始まっていたであろう.また,稜線直下の凹地の堆積物が2.3kaの焼岳中尾火砕流までの火砕物であるので,この時期には山上凹地が形成されていたことがわかる.