JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS12] 湿潤変動帯の地質災害とその前兆

コンビーナ:小嶋 智(岐阜大学工学部社会基盤工学科)、八木 浩司(山形大学地域教育文化学部)、内田 太郎(筑波大学)、苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)

[HDS12-P04] 線状凹地掘削コアから推定した上高地西部における完新世の岩盤重力斜面変形

*苅谷 愛彦1高岡 貞夫1 (1.専修大学文学部環境地理学科)

キーワード:岩盤重力変形、岩石なだれ、花崗閃緑岩、高山の地形変化

岩盤重力変形(DSGSD)は,山岳での大規模かつ破壊的な地すべり現象の顕著な前兆とされる.また,凹地や低崖,低丘などDSGSDに由来する微小スケールの地形は,斜面上の複雑な自然環境(土壌水分,地温,地形作用,微気候などの違い)の創成者的役割を果たす点において,重要な要素と考えられるようになっている.しかし日本の高山帯におけるDSGSDとそれに関連する地形発達史を解明する試みはほとんどなされていない.演者らはハンド・オーガを用いた掘削調査を北アルプス西穂高岳南方の2つの線状凹地(標高2219 mと2353 m)で実施し,2本のコア(コア:KNG-2017とNSH-2018)を得ることができた.どちらの線状凹地も更新世後期の周氷河性平滑化作用を受けたDSGSD斜面上(花崗閃緑岩)にある.両コアとも泥炭,腐植質シルト,砂・礫の互層と,焼岳火山の中尾テフラ(2300 cal BP)から成る.土壌相および暦年代モデルに基づくと,両線状凹地における地形形成と土壌生成の始まりは4000-5000 cal BP前後の完新世中期に遡る.この時代には掘削地周辺で大規模で破壊的な岩石なだれが2回発生し,現在の河童橋や田代池まで移動して定置した.また古気候は,わずかに不安定で冷涼な期間から回復途上にあったと考えられる.凹地の地形形成とその内外での自然環境(土壌や植生)の変化は,岩石なだれという局所的ながら顕著な地形変化と,汎球スケールでの気候変動の結合によって引き起こされ始めた可能性がある.