JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS12] 湿潤変動帯の地質災害とその前兆

コンビーナ:小嶋 智(岐阜大学工学部社会基盤工学科)、八木 浩司(山形大学地域教育文化学部)、内田 太郎(筑波大学)、苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)

[HDS12-P05] 北アルプス,白馬大雪渓周辺における岩盤斜面の地形変化

*杉山 博崇1奈良間 千之1井上 公2 (1.新潟大学、2.防災科研)

キーワード:落石、崩落、SfM、白馬大雪渓、UAV

1.はじめに

北アルプス,後立山連峰に位置する白馬岳と杓子岳の両岩壁に挟まれた白馬大雪渓では,岩壁からの落石や崩落により登山事故が起きている(小森, 2006).2005年8月には杓子岳北面の岩壁で崩落が生じ,2名の死傷者がでた.2008年8月には大雪渓の左岸斜面で崩落が発生し,登山者2名が犠牲になっている(苅谷ほか,2008).最近では,2018年,2019年に白馬岳側で岩盤崩落が立て続けに発生し,これらの崩落によるケガ人は出なかったものの,大雪渓の二号雪渓合流部より下流の左岸側は岩屑に覆われた.

高山帯の岩壁は踏査が困難な場所が多く,崩落現象を連続モニタリングした研究は少ない.森林限界以上の高山帯について,南アルプスや北アルプス南部では,地形変化や土砂収支の実態を明かにしようとする試みや(松岡ほか,2013),不安定斜面の挙動や気象要素との関係などが研究されてきたが(岩船,1996;西井・松岡,2012),北アルプス北部の豪雪地帯での研究はほとんどない.本研究では,岩壁からの礫生産が活発で事故が多発する北アルプス・白馬大雪渓周辺の岩盤斜面の崩落箇所を抽出するとともに,その地形場の特徴を複数年の連続モニタリングにより明らかにすることを試みた.

2.地域概要

白馬大雪渓は,後立山連峰の杓子岳と白馬岳の間の葱平モレーン直下から3号雪渓合流部付近に至る範囲に存在する多年性雪渓である.白馬大雪渓を含む松川北股入は氷食谷であり,大雪渓上流の谷頭には葱平圏谷と杓子岳北圏谷が南北に向かいあって存在する(小疇ほか,1974).大雪渓周辺を構成する岩盤は,飛騨外縁帯の古生界・中生界,新第三紀の貫入岩類および未固結第四系からなる(中野ほか,2002).多雨・多雪の気候環境下にあり,凍結融解作用に起因する特殊な地形が発達する(相馬ほか,1979;岩田,1980).大雪渓周辺の落石や崩落で堆積した未固結堆積物は,土石流となり大雪渓表面を流下する事例も報告されている(松元ほか,1998 ; 石井・小疇,1999).

3.研究方法

ドローンやセスナ空撮で得られたデジタル画像や空中写真を,2次元の形状からカメラ位置や3次元形状を特定する手法であるSfM(structure from motion)を用いて点群データを作成した.1976年,2004年,2005年の空中写真,2011年,2012,2014年,2017年の航空レーザデータ,2016年~2019年のUAV・セスナ空撮データから作成した点群データの比較や,現地調査や空撮画像から崩落箇所の地形場の特徴を検討し,地質ごとの礫の大きさと分布,雪渓や雪渓以下の河床の季節変化を調べた.地温データは,2015年~2017年に丸山付近(2750m,積雪深1m以下の西側風衝斜面),白馬山荘付近(2800m,積雪深5m以上の東側斜面)で測定したものを,雨量データは猿倉(1250m),頂上宿舎(2730m)のものを使用した.



4.結果

杓子岳では,1976年以降,北東から北向きの崩壊斜面が地点数,面積ともに極端に少なく,東から南向きの斜面が卓越するという斜面方位で崩落に違いがみられた.死傷者を出した2005年の崩落箇所において,周囲よりも節理が密に発達する箇所の近年の岩壁後退を確認した.2018,2019年の白馬岳からの崩落量と発生個所の斜面プロファイルを点群解析から求め,崩落箇所の崩落前と崩落後の地形変化を調べた.その結果,白馬岳と杓子岳では,侵食形態に違いがみられ,雪渓上の堆積様式も異なっていた.二号雪渓より上流の大雪渓上に堆積した礫は,白馬岳側と杓子岳側で礫径2mほどの大きさであった.一方,杓子岳側の礫径は小さいが,礫数が多く,崖錐が連続的に形成されている.また,杓子岳,白馬岳ともに,過去の規模の大きい崩落箇所は積雪がつかない凸斜面であったことが確認された.積雪深に違いがある,丸山付近と白馬山荘の地温データを比較すると,冬季に約10℃の温度差が確認された.

謝辞

白馬村,白馬村営頂上宿舎,白馬山案内人組合には多大なご協力をいただいた.また,本研究は佐々木財団研究助成,地すべり学会研究助成の一部を使用した.