JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS12] 湿潤変動帯の地質災害とその前兆

コンビーナ:小嶋 智(岐阜大学工学部社会基盤工学科)、八木 浩司(山形大学地域教育文化学部)、内田 太郎(筑波大学)、苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)

[HDS12-P06] 上越地区,雁平地すべり地形の表層変化

*井上 穣3奈良間 千之1王 純祥2瀧田 栄次2 (1.新潟大学、2.株式会社 キタック、3.新潟大学・院)

キーワード:地すべり、GNSS測量、差分干渉SAR、表層変化

1.はじめに

 リモートセンシングにて,現在滑動をしている地すべり地形を抽出する際に,地すべり地形の地表変化が抽出の指標となる.また,小原ほか(2006)は,地すべり地形の表層に見られる様々な微地形は,内部構造や滑動形態を反映した結果であると指摘している.このことから,地すべりの表面地形の変化を明らかにすれば,地すべりの内部構造や活動形態を推測することができる.
 実際に,地すべり地形にみられる微地形を類型化して,それぞれの発達過程を考察した報告もある(木全,2003).しかし,この報告では過去に動いた地すべり地形を対象としており,現在滑動している地すべり地形の,表層の時系列変化を高時間分解能で調査した研究は少ない.
 そこで,本研究では,新潟県高田平野の東方に位置する雁平地すべり地形を対象に,定期的なUAV空撮および現地踏査をおこない,表層の地形変化と地すべりの関係を考察した.

2.調査地概要

 調査地である新潟県上越市の雁平地すべり地区は,滑動が確認された順にⅠ,Ⅱ,Ⅲの区域に分けられ,いくつかの地すべり地形の集合体からなる.1961年に地すべり指定地として管理されて以来,調査と地すべり防止工事がおこなわれてきた.本研究では,Ⅲ区域の中で現在まで防止工事がおこなわれていない地すべり地形を対象とした.この地すべり地形は,2015年以降の流動が確認されており,株式会社キタックの移動観測杭の調査によると,年間最大で約38m水平移動している.

3.研究方法

 地すべり地形の地表変動を抽出するため,差分干渉SAR解析をおこなった.解析はALOS-2/PALSAR-2データのうちアセンディング軌道の2015年6月7日,7月5日,11月8日,2019年5月19日,11月3日の5画像3ペア,ALOS/PALSARデータのうちアセンディング軌道の2010年4月8日,5月24日,7月9日,8月24日の4画像の2ペアの解析をおこなった.
 また,2019年8月から2020年1月にかけ6回現地調査をおこなった.地すべり地形の地表面流動を観測するため,GEM-3(イネーブラー)を用いて移動杭と地表面マーカーのGNSS測量を実施した.立体的な地形の変動を測るため,UAV空撮による連続画像からSfMソフトを用いて3次元点群データを作成した.

4.地表面流動

 2015年の約1カ月間ペアの差分干渉SAR解析の結果,現在滑動する地すべり地形で地表面変動を示す変動縞を確認した.対して2015年の約4カ月間ペア,約5カ月間ペア,2019年約6カ月間ペアでは,地すべり地形の範囲内で干渉しない場所がみられた.つまり、1カ月間のペアでは干渉していた区域が、4カ月、5カ月と期間を開けていくほどに干渉性が低くなっていくことを示している。このことから,この区域は4カ月以上ペアで、位相の範囲に収まらないほどの地表面変動があったと推定できる。
 これらの結果から,現在滑動する地すべり地形は,標高150m~280m,長さ800m,幅170mであることを確認した.特定した地すべり地形周辺のGNSS測量では,9月13日~1月17日の127日間で最大4.5mの水平移動が確認され,現在もこの地すべり地形は活発に滑動していることが判明した..

5.表層の微地形
 
 現地での地形観察と作成した地形表層モデルより地すべり地形を微地形群に分類した.移動地塊のブロックは,地すべり地形の頭部(標高270m以上)にみられ,高さ1m程度の副次滑落崖によって分割されている.
 地すべり地形上の木本は点在する程度だが,地すべり地形の周辺は森林が発達している.地すべり地形内は,倒木や傾いた樹木がまばらに分布する程度で,ほとんどの植生は草本であり,裸地も点在する.地すべり地形の上部からガリーが数本形成されており,土石流による小規模な沖積錘も見られた.
 過去の衛星画像や空中写真を比較すると,2014年までは地すべり地形内は樹木に覆われているが,2015年以降から地すべり地形内で大幅に樹木数が減少することを確認した.

6表層の時系列変化
 
 菊池(2002)によると,直立する幹が森林群落を形成する場合,少なくとも幹が成長する過程で幹が破壊されるような地表の撹乱はなかったとされる.調査地では,2014年まで地すべり地形は樹木に覆われていたことから,表層を破砕するほどの激しい滑動は生じていなかったと考えられる.調査地は,樹木がなくなることで裸地化が進み,ガリーが発達することで土砂流出が増大している.今後,滑動が継続されれば樹木はなくなり,ガリーが発達し,裸地化と土砂流出により地表面の凹凸がさらに増加すると考えられる.以上のことより,樹木の減少を示す地域は地すべりによる崩壊が進んでいる可能性がある.今後,空中写真および差分干渉SAR解析により評価していく必要がある.