JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-GG 地理学

[H-GG01] 自然資源・環境の利用・変化・管理:社会科学と地球科学の接点

コンビーナ:佐々木 達(宮城教育大学)、上田 元(一橋大学・大学院社会学研究科)、古市 剛久(宮城教育大学)、大月 義徳(東北大学大学院理学研究科地学専攻環境地理学講座)

[HGG01-P01] 小豆島の風穴の気候学的研究

*堀内 雅生1山口 隆子2 (1.法政大学大学院人文科学研究科地理学専攻、2.法政大学文学部)

キーワード:風穴、温暖地域、空気対流、観測

1.はじめに
風穴とは,夏に山の斜面から冷風が吹き出す場所,およびそのような現象を指す(清水ほか,2015)。
日本における主な活用事例としては,蚕種の貯蔵が挙げられる。海外においてもスイス・北アルプスなどのヨーロッパでは,冷蔵小屋にミルクを貯蔵するなどの活用がされてきた(佐藤,2008)。
近年,自然ネルギーへの関心の高まりから,風穴の天然の冷源としての価値が再認識され,クールスポットとして観光や見学対象となっている風穴も多い。また,実用の冷蔵庫として種苗・野菜・漬物・果実などの貯蔵に利用している地域もあり,需要は増している。
このような風穴の活用のためには,その性質を明らかにすることが必要不可欠であり,明治期より気候・地形地質・植生分野にまたがった多くの研究が行われてきた。田中ほか(2004)では,夏季には外気に比べ相対的に崖錐内が低温であることによって生じる対流により冷風が下方の風穴から吹き出し,冬季には崖錐内部が相対的に高温であることによって上部の風穴から温風が吹き出すことを明らかにしている。なお,本稿では夏季に冷風を吹き出す風穴を「冷風穴」,冬季に温風を吹き出す風穴を「温風穴」と呼ぶ。
このような風穴の研究事例は,東北~北海道地方や高標高地域などの寒冷な地域において数多く報告されているが,気温が0℃を下回ることが少なく,風穴内部に氷が生じない温暖な地域における研究事例は,萩(森・曽根,2009)や神津島(鈴木,2019)などがあるものの,数は多くない。
今後,温暖化による気温の上昇で地表面の熱環境にも影響が出ることが考えられており(Bogdan et al.,2012),風穴の熱環境も同様に変化する可能性がある。そのため,特に現時点で温暖な地域で調査を行うことは,地球温暖化が風穴および風穴周辺に生息している動植物へ与える影響を考える上でも重要であると考えられる。

2.方法
本研究では,瀬戸内海に面し,気候が温暖な香川県小豆島に位置する風穴(標高107.4m)を対象とした。温度計(TandD:RTR-502, 10分間隔で測定)を風穴及び周辺に設置し,気温の長期変動を記録した。
また,8~11月には風穴に熱線風速計(CUSTOM:WS-03SD)を設置し,風速の日変化を観測した。

3.結果
観測開始(2019年6月8日)から10月初旬までの冷風穴気温は11~14℃前後で,外気温より低い状態を維持しながらも,徐々に上昇した。また,まとまった降水イベントの際には冷風穴気温の一時的な上昇がみられた。これは冷風穴内部に暖かい雨水が流れ込むことで,一時的に内部の温度を上昇させたものと思われる。
降水や外気の侵入による影響が少なく,安定して冷風が吹き出していたと思われる6月9日11:00(11.3℃)と10月1日11:00(14.1℃)の冷風穴気温を比較すると,2.8℃上昇しており,この期間中の冷風穴気温上昇率は0.025℃day-1であった。
風速観測結果であるが,冷風穴風速と冷風穴内外の気温差には比較的良好な相関関係がみられ,気温差が大きくなるほど風速が上昇することが分かった。これは,風穴の風が外気と風穴内部の空気の密度差によって生じるというメカニズム(高橋ほか,1991)を支持する結果となった。
その後,10月中旬頃から冷風穴気温と外気温の差が夜間にほぼ無くなる日が増え,11月上旬にはほぼ毎日夜間の気温差が非常に小さくなった。風穴は冬季になると,夏季に崖錐内に蓄えられた熱によって内部で上昇気流が生じ,夏季に冷風穴で吹き出していた風が吸い込みに転じるが,今回観測された冷風穴気温と外気温の同調は,この吸い込み現象をとらえたものと考えられる。なお,12月に実施した調査では風穴の風向は実際に吸い込みに替わっており,風穴気温が外気温と同調する要因を裏付ける結果となった。
また,温風穴について,冬季(2019.12.27)に周囲の地表面温度を放射温度計で測定することにより,発見することができ,観測を開始した。