JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-GM 地形学

[H-GM03] 地形

コンビーナ:八反地 剛(筑波大学生命環境系)、瀬戸 真之(福島大学うつくしま福島未来支援センター)

[HGM03-02] 穿入蛇行河川の過去数十万年間の平均下刻速度の推定:紀伊山地十津川の事例

*小松 哲也1小形 学1中西 利典1川村 淳1 (1.国立研究開発法人 日本原子力研究開発機構)

キーワード:環流旧河谷、光ルミネッセンス年代測定、侵食、第四紀

日本列島の山地における十万~数十万年間の隆起速度は、主としてTT法(吉山・柳田, 1995)とよばれる気候段丘の認定・編年に基づく手法を用いて算出されている。しかし、TT法を適用できる山地は、河成段丘が分布する山地に限られる。地層処分技術の信頼性向上という観点からは、河成段丘が分布しない山地における十万~数十万年間の隆起速度の推定手法の整備が必要であろう。そのような手法の一つに、安江ほか(2014)で示された穿入蛇行跡の地形、環流旧河谷に着目した手法がある。この手法は、環流旧河谷から旧河床堆積物を見出し、それらと現河床との比高を旧河床堆積物の離水年代で除することで河川の下刻速度を算出するという手法である。対象とする河川が下刻速度と隆起速度が釣り合っている平衡河川であり、気候変動による河床変動の振幅が小さければ、算出された下刻速度を隆起速度に読み替えることができるためである。この手法における技術的課題は、環流旧河谷に残された旧河床堆積物の堆積年代の制約にある。本研究では、この点について、熊野川(十津川)沿いの環流旧河谷(標高約210 m, 河床からの比高115 m)を事例に検討した。

事例対象とした環流旧河谷には、基盤岩上に厚さ約4 mの斜交層理を伴う粒径の揃った砂層及び砂礫互層が認められ、それらは赤色化した厚さ約11 mの亜角~亜円礫層に覆われる。亜角~亜円礫層は、安江ほか(2014)により125 ka以前に堆積したと推定されている。本研究では、砂層及び砂礫互層を掃流環境が定常的に維持される本流性の河床堆積物、亜角~亜円礫層を環流旧河谷の離水後に堆積した斜面堆積物であると解釈した。河床堆積物と解釈した砂層の3層準(浅い方よりS-1、S-3、 S-6、それぞれ深度11.1 m、13.3 m、15.1 m)において長石の光ルミネッセンス年代測定を適用した。

S-1、S-3、S-6のうち、蓄積線量が飽和に達していない長石が多く含まれるのはS-1のみであった。S-1の堆積年代については、不完全ブリーチによる残存線量の影響が考えられたため、その下限のみが280 kaと制約できた。この結果と安江ほか(2014)に基づくと、環流旧河谷の旧河床堆積物は、280~125 kaに堆積したと推定できる。S-1の堆積年代を環流旧河谷の離水年代とみなした場合、平均下刻速度は、0.37~0.83 mm/yrである。この値は、紀伊山地において熱年代法により見積もられた数百万年間の平均削剥速度やダムの堆砂量から算出された数十年間の平均削剥速度と整合的な値である。

謝辞:本報告は経済産業省資源エネルギー庁委託事業「平成31年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(地質環境長期安定性評価技術高度化開発)」の成果の一部である。

引用:吉山・柳田(1995)地学雑誌, 104, 809-826. 安江ほか(2014)地質学雑誌, 120, 435-445.