JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-GM 地形学

[H-GM03] 地形

コンビーナ:八反地 剛(筑波大学生命環境系)、瀬戸 真之(福島大学うつくしま福島未来支援センター)

[HGM03-03] 河床における巨石点在工法の危険性を探る閉管水路実験

*小玉 芳敬1河井 望2 (1.鳥取大学農学部、2.兵庫県)

キーワード:巨礫の移動、閉管水路実験、巨石点在工法、千代川、スーパースロービデオカメラ、鳥取県智頭町

はじめに

 近年河床を掘削し,水の流れを穏やかにするための河床平坦化工事が行われている.河床掘削に伴って現れた巨石(径50 cm以粗)を河床に孤立点在させる工法が,鳥取県で最近15年以上にわたり至るところで行われてきた.この工法を「巨石点在工法」と名付けた.巨石点在工法で配置された巨石は,通常1年以内に細かい砂利により埋もれる様子が観察されている.これは河川管理において河道断面積(河積)を増加させるねらいに逆行する.中・小規模の出水で運搬されてきた砂利は,巨石が作った粗度をなくす働きをしたためと理解される.

 本研究の目的は,巨石点在工法が近年密に行われている鳥取県智頭町(鳥取県県土整備部河川課資料を参考)において,その実態を調べることと,閉管水路実験によって巨石が動く条件を明らかにすることである.点在する巨石がもしも大出水時に動いたら思わぬ災害を招くため,研究の意義がある.

調査方法

 現地調査では鳥取県東部を流れる千代川の智頭町にかかる錦橋と備前橋から,河道景観を月1回のペースで写真撮影し記録した.水路実験では,幅6 cm・深さ10 cm・全長200 cmのアクリル製閉管水路を新たに作成し,下流端には幅6 cm・高さ2 cm・厚さ1 cmの堰を設けた.閉管水路を水平に設置し,下流側に水を張った水槽(48 cm×69 cm×38 cm)を置き,その中にポンプ(鶴見製作所製,HSD2. 55S-62,吐出量3 ℓ/s)を入れ,ホース(HAKKOEIGHTRON製,E-TB-50,径50 cm×62 cm)で水路の上流端に水を導き,循環させる実験装置を組み立てた.実験では水路下流端から125 cm区間に厚さ2 cmで砂(中央粒径0.6 ㎜)を敷き,ここに等間隔で円礫(中径20~25 ㎜)を千鳥足状に設置した.あらかじめ閉館水路内を水でみたしてから、実験を開始した.段波による円礫の移動を極力抑えるためであった.

 2つの実験を実施した.Case1では礫の最適個数に関する実験を行った.設置する礫の数を6・12・24個と変化させ,礫の動き方について観察し,礫の最適配置個数を明らかにした.Case2ではCase1で決めた礫の数12個(8 cm間隔の千鳥足状配置)で固定し,同じ条件の実験を14回繰り返した.スーパースロービデオカメラ(SONY製,NEX-FS700RH)を用いて水路側面から40 %スロー撮影し,この動画を解析することで礫の動く条件と動かない条件を明らかにした.

結果および考察

 現地調査の結果,2019年1-2月に新設された智頭町の巨石点在区間では,巨石は細かい砂礫によって一部埋まり,多くはほとんど変化ない状態であった.2019年には,千代川の出水が極めて少なかったためと考える(国土交通省の水文・水質データベースによる).

 閉館水路実験では,水が流速55 cm/sほどで閉管水路を満たして流れた.そして上流側から波長10-50 cm、波高1-5 cmのデューン(砂堆)が形成され流下した.礫の動きが確認されたのは,デューンの上流端・下流,そして平滑砂床において,いずれも礫の下流側で砂面低下が生じた時であった.いっぽう礫が動かなかったのは,礫同士が隣り合って接触し集団(ジャム)を形成した場合や,ジャムの下流側10-15 cm以内で孤立した礫であった.

 実験開始から礫が動き出すまでの時間に注目すると,水路の下流側ほど早く礫が動き出すこと,いっぽう上流側の礫はジャムを作りやすいことがわかった.この原因として,ⅰ)上流側でデューンが形成され,デューン上流の礫が滑動してジャムを作ること,ⅱ)デューン下流側の礫は一旦デューンに埋まるために,動き出すまでに時間がかかることが考えられる.

 実験でみられた礫径の1~1.5倍ほど高さのあるデューンの発生は,野外では考えにくい.さらに礫床河川ではそもそもデューンは形成されにくい.したがって野外では河床砂礫面の低下が発生する条件下で巨石が動く可能性が高いと指摘できる.

結論

 実験からは,巨石は孤立していると河床低下時に動き始める危険性が高いことが推定される.巨石点在工法の実施区間では,下流側から巨石が動き始める危険性が高い.

 河床掘削工事に伴って現れた巨石は,護岸材料として利用するのが望ましい.河道内に残す場合は,孤立点在させず,数個集めて集団(ジャム)を作ることが巨石を動きにくくする効果的な方法である.

資料

国土交通省 水文水質データベース:千代川用瀬観測所水位流量データ

鳥取県県土整備部河川課:智頭町の河床掘削工事(緊急対策)の位置図