[HGM03-05] 森林の消失に伴う花崗岩山地での流域斜面の状態遷移過程:滋賀県田上山地における人為的侵食加速過程の定量的モデリング
キーワード:人為的環境攪乱、土層持続性、樹木根系、宇宙線生成核種、天井川
過度な森林資源の収奪により流域内から森林が消失すると,表面侵食が加速し,土層が完全に流出して,斜面は風化基盤岩が露出した状態へと不可逆的に遷移する.このいわゆるハゲ山の出現過程をモデリングするためには,降水の樹冠遮断やリターと腐植の地表被覆がもたらす雨滴侵食防護効果および樹木根系の土粒子保持効果の喪失による斜面安定性の低減を定量的に評価する必要がある.本研究では,土層の発達程度と植生の状態が大きく異なる滋賀県田上山地の不動寺流域(半自然植被状態)と若女裸地谷流域(無植被状態)を対象に,現地踏査,空間情報解析,そして宇宙線生成核種分析を行い,両流域における地形変化過程をモデル化した.そして,植被状態に依存した表面侵食防護と樹木根系による土層補強の効果を考慮したシミュレーションにより,人為的要因による森林の消失が流域の斜面を覆う土層の存続性に与えるインパクトを解析した.
斜面の土層がせん断変位を伴って移動しようとするとき,すべり面に働くせん断力に対して樹木根系は引き抜き抵抗力を発揮する.その効果は,土層の単位断面積あたりの根系の引張破断強度の総和による粘着力の増分として評価できる.ここでは土層深度10 cmごとに,試孔壁面で検出された樹木根の引張破断強度をその直径に基づいて算出し,その総和を深度別に求めた.その結果,樹木根系による粘着力増分値は,地表付近で101 kPaとなり,深度方向にその値は非線型的に減衰する.土層底面でのせん断破壊を想定すると,樹木根系の土層補強は土層厚が0.5 mのときに最もその効力を発揮する.
尾根型斜面における土層厚調査と宇宙線生成核種の濃度分析により決定した土層生成関数をもとに数値計算を行い,上述の小流域における土層の空間分布を再現した.さらにそれを場の条件として,モデル化した樹木根系の土層補強効果を導入して土層の安定性を評価すると,樹木根系の消失とともに,土層の存続性が低減する様子が再現された.土層の無機的なせん断強度として相対的に粘着力が大きい不動寺流域での値(粘着力c = 4.1 kPa,せん断抵抗角φ = 31.5°)を用いると,土層浅部に地下水面が到達するような場合でない限り,流域内の土層の大部分は安定している.しかし,相対的に粘着力の小さな若女裸地谷流域での値(c = 1.9 kPa,φ = 34.6°)を用いると,間隙水圧の上昇があれば,ほとんどの斜面で土層が不安定と判定され,自然な流域でみられるような厚みでは存続できないことが示された.すなわち,流域から森林が消失すると,土層が不安定化して表面侵食により土砂流亡が加速し,非粘着質なレゴリスが斜面を薄く覆う裸地へと変化する.その条件では,恒常的に土砂が生産・排出されるようになり,それまでの森林に被覆された状態とは異なる新しい定常状態をつくりだすため,元の状態へと回帰することが難しくなるものと推定される.
ところで,このような人為的な影響による流域の状態遷移は,いつから,どのように生じたのだろうか.流域出口近傍の堆積場での土砂供給履歴を復元し,モデルの確からしさを検証するため,下流の低地に形成されている天井川の堆積物を対象にしたボーリングコアの採取と分析を現在進めている.本発表では,2020年2月の掘削調査で得られた堆積物コアの分析についても紹介する.
斜面の土層がせん断変位を伴って移動しようとするとき,すべり面に働くせん断力に対して樹木根系は引き抜き抵抗力を発揮する.その効果は,土層の単位断面積あたりの根系の引張破断強度の総和による粘着力の増分として評価できる.ここでは土層深度10 cmごとに,試孔壁面で検出された樹木根の引張破断強度をその直径に基づいて算出し,その総和を深度別に求めた.その結果,樹木根系による粘着力増分値は,地表付近で101 kPaとなり,深度方向にその値は非線型的に減衰する.土層底面でのせん断破壊を想定すると,樹木根系の土層補強は土層厚が0.5 mのときに最もその効力を発揮する.
尾根型斜面における土層厚調査と宇宙線生成核種の濃度分析により決定した土層生成関数をもとに数値計算を行い,上述の小流域における土層の空間分布を再現した.さらにそれを場の条件として,モデル化した樹木根系の土層補強効果を導入して土層の安定性を評価すると,樹木根系の消失とともに,土層の存続性が低減する様子が再現された.土層の無機的なせん断強度として相対的に粘着力が大きい不動寺流域での値(粘着力c = 4.1 kPa,せん断抵抗角φ = 31.5°)を用いると,土層浅部に地下水面が到達するような場合でない限り,流域内の土層の大部分は安定している.しかし,相対的に粘着力の小さな若女裸地谷流域での値(c = 1.9 kPa,φ = 34.6°)を用いると,間隙水圧の上昇があれば,ほとんどの斜面で土層が不安定と判定され,自然な流域でみられるような厚みでは存続できないことが示された.すなわち,流域から森林が消失すると,土層が不安定化して表面侵食により土砂流亡が加速し,非粘着質なレゴリスが斜面を薄く覆う裸地へと変化する.その条件では,恒常的に土砂が生産・排出されるようになり,それまでの森林に被覆された状態とは異なる新しい定常状態をつくりだすため,元の状態へと回帰することが難しくなるものと推定される.
ところで,このような人為的な影響による流域の状態遷移は,いつから,どのように生じたのだろうか.流域出口近傍の堆積場での土砂供給履歴を復元し,モデルの確からしさを検証するため,下流の低地に形成されている天井川の堆積物を対象にしたボーリングコアの採取と分析を現在進めている.本発表では,2020年2月の掘削調査で得られた堆積物コアの分析についても紹介する.