JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-GM 地形学

[H-GM03] 地形

コンビーナ:八反地 剛(筑波大学生命環境系)、瀬戸 真之(福島大学うつくしま福島未来支援センター)

[HGM03-P03] 熱水変質作用を受けた砂岩の化学・物理的風化過程: 水理・力学的な物性の変化

*菊池 美帆1松四 雄騎1 (1.京都大学防災研究所 地盤災害研究部門 山地災害環境分野)

キーワード:化学的風化、物理的風化、細粒砂岩、熱水変質、岩盤崩壊、平成30年7月豪雨

本研究では,弱い熱水変質作用を受けた付加体砂泥互層中の砂岩を対象に,主としてカルサイトとローモンタイトからなる網状脈の影響を受けた岩盤の化学・物理的風化過程と風化帯の発達を,水理・力学的物性変化の観点から明らかにする.調査対象地は,平成30年7月豪雨の際に多数の斜面崩壊が発生した愛媛県宇和島市吉田町である.この地域の基盤岩は,四万十帯法華津層に属する.崩壊の形態はごく薄い土層が滑落する表層崩壊と,10m以浅の基盤岩中にすべり面を形成する小規模な岩盤崩壊の2つであった.4日間にわたって累積雨量540 mmの降雨が継続し,3日目の朝に最大時間雨量36 mm/hを記録しており,多くの斜面が3日目の朝の降雨の最終局面で崩壊に至った.岩盤崩壊の発生した斜面および海岸あるいは谷壁の露頭において,風化程度の分類,土層-強風化岩盤断面構造の観察,シュミットロックハンマーを用いた原位置での岩盤強度の測定を行った.また,典型的な斜面を選定し,深度25 mまでのボーリングコアを掘削して,風化帯構造の観察と化学鉱物組成の分析を行った.風化様式の一般性を確認するために,多地点で風化段階の異なる岩石のブロック試料を採取し,同様に分析した.砂岩中には弱い熱水変質作用を受けて形成された白色の鉱物脈が網状に発達し,亀裂や節理が多くみられる.斜面の風化帯構造は,下位より次の7つの階層によって特徴づけられる: 0) 青灰色の未風化岩,1) 白脈中に間隙のみられる硬岩,2) 節理に沿った部分のみ酸化色を呈する硬岩,3) 岩芯まで変色し,節理や亀裂に沿って離断する強度低下の始まった岩石,4) 多数の開口亀裂を生じ,強度が著しく低下して岩片状に容易に破砕する岩石,5) 全体が軟化し,割れ目がむしろ閉じているサプロライト,6) 原位置から移動し,構造の失われた土層(観察した2地点では層厚20㎝,50㎝) である.塩酸を滴下してみると,1) 以降の風化段階の岩石では白脈や基質からの発泡がみられず,化学鉱物分析により,風化の初期段階でカルサイトが消失していることがわかった.白脈の主たる構成鉱物はローモンタイトであった.ローモンタイトは,湿潤乾燥により膨張収縮を繰り返すため,カルサイトが溶解してできた間隙に浸透水が供給されることで岩石の破砕が進行するものと予想される.岩盤強度の急激な低下の原因は,こうした機構によって形成された割れ目の連結によるものであると推察される.今後,ボーリング孔を用いた地下水位の計測と土層―浅層岩盤中の水文観測,および室内土質・岩石試験により斜面の水文地質特性を明らかにするとともに,岩石の膨張収縮を実験により定量化することで,風化の機構と過程を検証していく.