JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-QR 第四紀学

[H-QR06] 第四紀:ヒトと環境系の時系列ダイナミクス

コンビーナ:小荒井 衛(茨城大学理学部理学科地球環境科学コース)、横山 祐典(東京大学 大気海洋研究所 高解像度環境解析研究センター)、奥村 晃史(広島大学大学院文学研究科)、里口 保文(滋賀県立琵琶湖博物館)

[HQR06-02] 完新世の海水準高頂期における津波・高潮災害の顕在化:北海道日高地域沿岸の例

*中西 諒1,2芦 寿一郎1,2,3横山 祐典1,3宮入 陽介1 (1.東京大学大気海洋研究所、2.東京大学大学院新領域創成科学研究科、3.東京大学大学院理学系研究科)

キーワード:津波堆積物、完新世高海水準期、北海道、珪藻微化石、沿岸域自然災害

IPCC 第5次評価報告書は気候変動の影響による水災害の激甚化や高頻度化を予想している.そのため過去の海水準上昇期における水災害を地質記録から復元することは将来の災害対策を行う上で重要である.アメリカ南部では完新世中期の温暖期において大規模な洪水災害が増加していたことが報告されている(Ely, 1997; Knox, 2000).一方,沿岸域における津波や高潮ついては気候変動に伴う海水準上昇による規模の増大が予想されるが,海水準変動とこうした自然災害の規模や頻度についての研究例は乏しい.そこで海溝から200­­–300 km離れた北海道日高沿岸において地質調査および海成層認定を行い,津波や高潮の痕跡形成時期との関係性について究明することを目的とした.



地質調査は日高地域南部・中部・北部においてそれぞれ現在の海食崖や過去の浜堤背後の泥炭地を対象とした.珪藻微化石および化学分析によって明らかになった海成層の上限は6000-4000BP頃であった.これは完新世中期の海水準高頂期にあたり,その後淡水域,乾燥域へと堆積環境変化を示した.砂層は2~9層確認され,いずれの砂層も内陸方向へとせん滅することなどから,海浜を供給源とするイベント層であると判断された.放射性炭素年代測定の結果からイベント層の堆積年代は海成層の上限から,約2000年前後の層準に限定されていることが判明した.このことから海水準の高頂期に対応してイベント層が形成されたことが示唆される.日高沿岸域での相対的海水準上昇量は1­-3 mとされているが(Okuno et al., 2014),このような変化が沿岸域における津波やストームの陸域遡上に影響を与え,水災害の甚大化を引き起こしたと推定される.