JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-QR 第四紀学

[H-QR06] 第四紀:ヒトと環境系の時系列ダイナミクス

コンビーナ:小荒井 衛(茨城大学理学部理学科地球環境科学コース)、横山 祐典(東京大学 大気海洋研究所 高解像度環境解析研究センター)、奥村 晃史(広島大学大学院文学研究科)、里口 保文(滋賀県立琵琶湖博物館)

[HQR06-03] 珪藻分析を用いた九州西岸沿岸湖沼堆積物に残された巨大台風堆積層の再検討

*鹿島 薫1福本 侑2原口 強3 (1.九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門、2.立命館大学、3.大阪市立大学)

キーワード:珪藻分析、台風堆積物、高潮イベント、完新世、九州西岸、日本

本研究では、九州西海岸に位置する池田池(大蛇池)において、珪藻遺骸群集を指標として、過去6700年間の災害史の復元を試みた。池田池(大蛇池)は、東西南北200mの淡水沿岸湖沼であるが、Woodruff et al (2014)によって、元寇時における台風堆積物(Kamikaza Typhoon) が確認されている。それを確認することを目的に、2016年9月に、湖底基底までの22mのオールコアボーリング試料が採取された。このうち珪藻が多産した0~15m(約8000年間)について、珪藻遺骸を用いた古環境の復元を行った。珪藻分析は2~4cm間隔で、合計500試料で行った。

湖形成当初は、Cyclotella caspia (C. atmus v. gracilis),Thalassiosira spp., Diploneis smithii, Tryblionella spp.,などが多産するラグーン環境が形成され、湖内への頻繁な海水流入がなされていた。約6700年前(12.6m)に、砂州の形成により、海域より切り離されて、淡水湖沼となった 。Aulacoseira spp. Cyclotelola spp.(freshwater), Achnanthes minutissima, Staurosira spp., Synedera spp.が優占するようになった。

池田池(大蛇池)は6700年前以降、小規模な淡水湖沼が現在まで継続しており、淡水生浮遊生~半浮遊生珪藻種が優占している(12.6m以浅の層準)。しかし、その間に、以下の9層において、自然災害に起因する可能性のある、イベント性堆積物層が挟在していることがわかった。いずれも、産出した珪藻遺骸群集の特徴から判別される。湖岸や周辺斜面からの顕著な土砂流入を伴うが、明瞭な海水侵入を伴わない、3回の洪水土砂堆積期(F1:約5800年前、F2:約2500年前、F3:約670年前)では、Pinnuralia spp., Eunotia spp.などの淡水生付着生種および黄金色藻類の休眠胞子の産出によって特徴づけられる。明瞭な海水侵入を伴なう6回の海水侵入期(M1:約6400年前、M2:約4200年前、M3:約3800年前、M4:約1900年前、M5:約1400年前、M6:約1100年前)では、内湾域や汽水湖沼に多産するCyclotella caspia (C. atmus v. gracilis),干潟域に多産するTryblionella spp.,海水浮遊生のChaetoceros属の休眠胞子などによって特徴づけられる。いずれも、巨大台風ないしは高潮などを伴うイベント堆積物であると推定された。Woodruff et al (2014)による“Kamikaze Typhoon” はF3に該当する。