JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-QR 第四紀学

[H-QR06] 第四紀:ヒトと環境系の時系列ダイナミクス

コンビーナ:小荒井 衛(茨城大学理学部理学科地球環境科学コース)、横山 祐典(東京大学 大気海洋研究所 高解像度環境解析研究センター)、奥村 晃史(広島大学大学院文学研究科)、里口 保文(滋賀県立琵琶湖博物館)

[HQR06-07] 東京台地部のオールコアとボーリングデータ解析から見えてきた古多摩川の大規模な側方侵食

*遠藤 邦彦1須貝 俊彦2中澤 努3杉中 佑輔4内藤 尚輝5竹村 貴人6 (1.日本大学文理学部自然科学研究所、2.東京大学、3.産業技術総合研究所、4.計算力学研究センター、5.日本大学大学院、6.日本大学文理学部地球科学科)

キーワード:古多摩川、東京層、世田谷層、側方侵食、多摩丘陵

MIS6からMIS5.5に東京地域に堆積した東京層と世田谷層は同一時代のもので,東京層と一括されるべきであるが,世田谷区を中心に分布する世田谷層はかなりその性格を異にする.本発表ではその違いがどこに由来するかを論ずるので,世田谷区及び三鷹市に分布する東京層を便宜的に世田谷層と呼ぶ.

 世田谷層については,最近中澤ほか(2019)や植村ほか(印刷中)によって世田谷区内数地点でオールコアボーリングが実施され,テフラや花粉分析等に基づきMIS6 - MIS5.5の層序や堆積環境が検討された.本研究ではその北西延長にあたる三鷹市においてオールコアを採取し現在分析中である.以上の世田谷層は共通した性格をもち,その主体の海成泥層は,世田谷区南部から三鷹市中南部に細長く延びる谷地形を埋積する(小林ほか,2019; 内藤ほか,印刷中).また既存柱状図資料ではこの泥層のN値は極めて低い.

 一方淀橋台や豊島台などの東京層は,東京港地区のオールコア(都港湾局,2001),代々木公園(遠藤毅ほか,1996)を代表とする大深度コアがあるが,東京層の基底からトップまでを連続的にとらえたものは多くない.大量のボーリングデータの検討から(遠藤ほか,2018など),この地域の東京層は,大きくは下部の谷埋めタイプの泥質堆積物と,上部の砂質堆積物を主体とする部分からなり,さらに数段認められる波食台を覆う部分があり,中間礫層や上部礫層が伴われるなど,全体に砂や砂礫に富み,岩相変化が激しく,基底の谷地形自体が複雑である.この地域では産総研によるオールコアが採取され現在分析中である.

 遠藤ほか(2019)は,武蔵野台地の地形区分の見直しを試み,S面の残丘が少なくないことや,M面が地形的に細分されること等を示した.そこで作成された多数の断面図から1つの仮説が導かれる."世田谷層の堆積時には,多摩丘陵が三鷹市内まで広がり,世田谷層が埋積する細長い谷は,現在の鶴見川や矢上川のような多摩丘陵内に発する谷であり,当時の多摩川は世田谷層の谷に流入することはできなかった"というものである.その結果,MIS5.5の海進は東京層部分では広く波食面を残しながら陸域に浸入したが,世田谷層分布域では谷(本発表では世田谷埋積谷と呼ぶ)に浸入し,多摩川の影響を受けず安定した内湾を形成した.世田谷層と東京層の岩相の相違はこれによって説明可能である.

 以上の仮説について以下の項目に関連して検討する.

1. 南北地質断面図からわかること:三鷹以南では武蔵野礫層は直接上総層群を斬っている.立川礫層も同様である.広い分布を示す武蔵野扇状地や立川扇状地は薄層扇状地と呼ばれ,9万年前 - 2万年前に徐々に海水準が低下する過程で強い側方侵食が進んだ結果とされた(斎藤,1998).

2. 府中市浅間山の存在:寿円(1965)は御殿峠礫層と上総層群の礫層を認めた.

3. M面中に孤立した牟礼の高台(S面より古期):この高台は多摩丘陵の北縁部であった.

4. 上総層群軟岩の侵食:上総層群からなる多摩丘陵を約7㎞に及び多摩川が側方侵食することは可能か検討する.当時の谷を除き丘陵を侵食する実距離は約6㎞,9万年で割ると6.7㎝/年である.荏原台ではこの軟岩の波食面が卓越する.軟岩の侵食についてはデブリコントロール説(池田,1998)も検討する.



引用文献

遠藤邦,千葉,他(2019)武蔵野台地の新たな地形区分. 第四紀研究, 58, 353-375; 遠藤邦,堀,他(2018)東京台地部の東京層と, 関連する地形. 地惑連合大会, HQR04-12; 遠藤毅,中山,他(1996)東京都区部の大深度地下地盤. 都土木研年報H.8, 193-216; 池田(1998)軟岩と河川地形. 水辺環境の保全と地形学, 37-43; 寿円(1966)多摩川流域における武蔵野台地南部の地質. 地学雑誌, 75, 266-281; 小林,内藤,他(2019)地質柱状図群のN値と岩相分布から見た世田谷層の分布とその形成に関する考察. 応用地質学会演旨, 203-205;内藤,竹村,他(印刷中)更新世堆積物の堆積環境推定のための電気伝導度の測定法の検討. 日大自然研紀要, 55号; 中澤,長,他(2019)東京都世田谷区, 武蔵野台地の地下に分布する世田谷層及び東京層の層序, 分布形態と地盤震動特性. 地質学雑誌, 125, 367-385; 齋藤享治(1998)日本の扇状地. 古今書院, 280pp.; 都港湾局(2001)新版東京港地盤図. 107pp.; 植村,遠藤邦,他(印刷中)東京都世田谷区桜丘のNU-SKG-1コアにおける東京層(世田谷層)のテフラと地質層序. 日大自然研紀要, 55.