[HQR06-09] 東京都心部に分布する更新統東京層の谷埋め堆積物の層序と地盤物性・地盤震動特性
キーワード:東京層、層序、地盤物性、地盤震動特性、更新統
更新統東京層は東京都心部の台地の浅部地盤を構成する地層である.本講演では,東京層のうち,東京都港区付近を中心に分布する谷埋め泥層の層序と地盤物性・地盤震動特性について報告する.
最近,東京層は,房総半島の下総層群木下層(MIS5e)や上泉層(MIS7e),薮層(MIS9)に相当する地層が含まれ(納谷ほか,2019a, b;中澤ほか,2020),それぞれが複雑に侵食しあって分布することが明らかになってきた.このような東京層の複雑な分布様式を反映して,東京層の地盤物性・地盤震動特性は一様ではない.砂層が卓越する東京層はN値が30〜50,S波速度は300m/s以上を示すことも多いが,今回は特異な例として,武蔵野台地の東端の東京都港区高輪付近を中心に分布する厚い泥層を取り上げる.この泥層はN値が10以下と台地にしては軟らかく,層厚は15 m以上に達することもある.この付近で掘進長50 mのボーリング調査(以下,港区ボーリングと呼ぶ)を実施したところ,この泥層は,河川成の堆積物(礫層・腐植質泥層)の上位に累重する,生物擾乱を強く受けた砂質泥層,泥層からなり,上方に細粒化する内湾成堆積物であることが明らかになった.既存の土質ボーリングデータの検討によれば,この泥層は,港区ボーリング地点から西側へ,東京層の模式試錐地点(東京都土木技術研究所,1996)の渋谷区代々木付近につながる谷埋め堆積物(MIS5e;中澤ほか,2020)と考えられる.なお,この内湾成泥層の上位には貝化石を含む泥質砂層が累重し,さらにそれをローム層が覆う.
ボーリング孔のPS検層によれば,この谷埋め状の内湾堆積物のS波速度は,下部の砂質泥層は200〜280 m/s程度であるが,上部の泥層は170 m/s程度の低い値を示した.またその上位の泥質砂層もS波速度は最大で280m/s程度である.地震動増幅率の算定にしばしば用いられる地表から30 mまでの平均S波速度(AVS30)はおよそ210 m/sで,台地としてはかなり低い値を示した.これはボーリング地点付近(淀橋台)には河川成の段丘礫層を欠き東京層を直接ローム層が覆うことも影響している.ボーリング地点付近で実施した微動アレイ観測の位相速度から推測されるAVS30も約200 m/sを示し,ボーリング孔のPS検層結果とほぼ一致した.微動のH/Vスペクトルには2 Hz付近にピークがみられた.
東京層相当の谷埋め堆積物としては東京都世田谷区の世田谷層(東京都土木技術研究所,1996)が知られるが,世田谷層の泥層のS波速度が150 m/s程度(中澤ほか,2019)であるのに対して,港区の泥層は200 m/sを超えることが多い.これは港区の谷埋め泥層が全体に砂分を多く含むことによると考えられる.しかしながら300m/sを安定して超える工学的基盤は埋没谷基底の礫層ということになり,深度は30 m以深である.
このように,これまで東京層と呼ばれていた地層にはさまざまな年代・物性の地層が含まれ,なかでも泥層を主体とする谷埋め堆積物の分布は地盤リスクの観点から注意が必要である.
文献
中澤 努・長 郁夫・坂田健太郎・中里裕臣・本郷美佐緒・納谷友規・野々垣進・中山俊雄(2019) 東京都世田谷区,武蔵野台地の地下に分布する世田谷層及び東京層の層序,分布形態と地盤震動特性.地質学雑誌,125,367–385.
中澤 努・納谷友規・坂田健太郎・本郷美佐緒・鈴木毅彦・中山俊雄(2020)東京層の模式コアセクション(代々木公園コア)における層序の再検討.地質調査研究報告,71,19–32.
納谷友規・坂田健太郎・中澤 努・鈴木毅彦・中山俊雄(2019a)東京層の層序の再検討:北区中央公園コアの再解析. 日本地球惑星科学連合2019年大会講演要旨, HQR05-10.
納谷友規・坂田健太郎・中澤 努・中里裕臣・中山俊雄(2019b) 東京都千代田区紀尾井町地下の更新統東京層に認められる堆積サイクルとテフラ層序.日本地質学会第126年学術大会講演要旨,72.
東京都土木技術研究所(1996) 東京都(区部)大深度地下地盤図—東京都地質図集6—.
最近,東京層は,房総半島の下総層群木下層(MIS5e)や上泉層(MIS7e),薮層(MIS9)に相当する地層が含まれ(納谷ほか,2019a, b;中澤ほか,2020),それぞれが複雑に侵食しあって分布することが明らかになってきた.このような東京層の複雑な分布様式を反映して,東京層の地盤物性・地盤震動特性は一様ではない.砂層が卓越する東京層はN値が30〜50,S波速度は300m/s以上を示すことも多いが,今回は特異な例として,武蔵野台地の東端の東京都港区高輪付近を中心に分布する厚い泥層を取り上げる.この泥層はN値が10以下と台地にしては軟らかく,層厚は15 m以上に達することもある.この付近で掘進長50 mのボーリング調査(以下,港区ボーリングと呼ぶ)を実施したところ,この泥層は,河川成の堆積物(礫層・腐植質泥層)の上位に累重する,生物擾乱を強く受けた砂質泥層,泥層からなり,上方に細粒化する内湾成堆積物であることが明らかになった.既存の土質ボーリングデータの検討によれば,この泥層は,港区ボーリング地点から西側へ,東京層の模式試錐地点(東京都土木技術研究所,1996)の渋谷区代々木付近につながる谷埋め堆積物(MIS5e;中澤ほか,2020)と考えられる.なお,この内湾成泥層の上位には貝化石を含む泥質砂層が累重し,さらにそれをローム層が覆う.
ボーリング孔のPS検層によれば,この谷埋め状の内湾堆積物のS波速度は,下部の砂質泥層は200〜280 m/s程度であるが,上部の泥層は170 m/s程度の低い値を示した.またその上位の泥質砂層もS波速度は最大で280m/s程度である.地震動増幅率の算定にしばしば用いられる地表から30 mまでの平均S波速度(AVS30)はおよそ210 m/sで,台地としてはかなり低い値を示した.これはボーリング地点付近(淀橋台)には河川成の段丘礫層を欠き東京層を直接ローム層が覆うことも影響している.ボーリング地点付近で実施した微動アレイ観測の位相速度から推測されるAVS30も約200 m/sを示し,ボーリング孔のPS検層結果とほぼ一致した.微動のH/Vスペクトルには2 Hz付近にピークがみられた.
東京層相当の谷埋め堆積物としては東京都世田谷区の世田谷層(東京都土木技術研究所,1996)が知られるが,世田谷層の泥層のS波速度が150 m/s程度(中澤ほか,2019)であるのに対して,港区の泥層は200 m/sを超えることが多い.これは港区の谷埋め泥層が全体に砂分を多く含むことによると考えられる.しかしながら300m/sを安定して超える工学的基盤は埋没谷基底の礫層ということになり,深度は30 m以深である.
このように,これまで東京層と呼ばれていた地層にはさまざまな年代・物性の地層が含まれ,なかでも泥層を主体とする谷埋め堆積物の分布は地盤リスクの観点から注意が必要である.
文献
中澤 努・長 郁夫・坂田健太郎・中里裕臣・本郷美佐緒・納谷友規・野々垣進・中山俊雄(2019) 東京都世田谷区,武蔵野台地の地下に分布する世田谷層及び東京層の層序,分布形態と地盤震動特性.地質学雑誌,125,367–385.
中澤 努・納谷友規・坂田健太郎・本郷美佐緒・鈴木毅彦・中山俊雄(2020)東京層の模式コアセクション(代々木公園コア)における層序の再検討.地質調査研究報告,71,19–32.
納谷友規・坂田健太郎・中澤 努・鈴木毅彦・中山俊雄(2019a)東京層の層序の再検討:北区中央公園コアの再解析. 日本地球惑星科学連合2019年大会講演要旨, HQR05-10.
納谷友規・坂田健太郎・中澤 努・中里裕臣・中山俊雄(2019b) 東京都千代田区紀尾井町地下の更新統東京層に認められる堆積サイクルとテフラ層序.日本地質学会第126年学術大会講演要旨,72.
東京都土木技術研究所(1996) 東京都(区部)大深度地下地盤図—東京都地質図集6—.