JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-QR 第四紀学

[H-QR06] 第四紀:ヒトと環境系の時系列ダイナミクス

コンビーナ:小荒井 衛(茨城大学理学部理学科地球環境科学コース)、横山 祐典(東京大学 大気海洋研究所 高解像度環境解析研究センター)、奥村 晃史(広島大学大学院文学研究科)、里口 保文(滋賀県立琵琶湖博物館)

[HQR06-P04] 鬼怒川中流域におけるクレバススプレー堆積物の粒度組成

*佐藤 善輝1卜部 厚志2 (1.産業技術総合研究所 地質情報研究部門 平野地質研究グループ、2.新潟大学 災害・復興科学研究所)

キーワード:クレバススプレー、河川氾濫、粒度組成、完新世

鬼怒川中流域には,鬼怒川の左岸に沿ってクレバススプレーが多数発達する.これらは13 世紀前後の 200~300 年間に集中的に形成された可能性が指摘されている(貞方, 1972).しかし,これまで堆積物の詳しい記載や年代資料の報告は少なく,詳細な形成過程は明らかになっていない.本研究では,こうした問題点を踏まえて,鬼怒川中流域の常総市石下地区周辺のクレバススプレー上の3地点(西側から順に GS-JIS-6~8)において,クレバススプレー堆積物を貫く掘削長 5 m のオールコア試料を採取し,コア解析と粒度分析を実施した.粒度分析は1 cm間隔で試料を分取し,新潟大学所有のレーザ回折式粒度分布測定装置を用いて実施した.
GS-JIS-6~8コアでみられた堆積物は,粒度や色調などの違いから大きく3ユニット(下位から順にユニット1~3)に区分される.最下部の標高 9.0~12.5 m には,有機質なシルト~細粒砂混じりシルトから成り,後背湿地堆積物と推定されるユニット1が分布する.ユニット1からは2,797–2,953 cal BP,3,576–3,695 cal BPの放射性炭素(14C)年代測定値が得られた.GS-JIS-8では,ユニット1上位の標高11~12 mに細礫混じりの中粒砂を主体とするユニット2が分布し,河川チャネル堆積物と推定される.ユニット2からは1,175–1,280 cal BP,1,289–1,348 cal BPの14C年代測定値が偉得た.最上部の標高12~13.5 mより上位には,クレバススプレー堆積物と推定されるユニット3が分布する.ユニット3は西側ほど分布高度が高く,極細粒~中粒砂とシルトの互層から成る.ユニット3最下部からは731–903 cal BP,798–955 cal BPの14C年代測定値が得られた.
クレバススプレー堆積物(ユニット3)中に着目すると,3~4層の砂層が認められることから少なくとも3回の河川氾濫によってクレバススプレーが形成されたと推定できる.それぞれの砂層の層厚は2 cmから最大で約1.1 mで,上位のものほど層厚が大きく,徐々にクレバススプレーが東側に(河道から氾濫原側へ)前進したことが示唆される.ユニット3は14C年代測定値から700~900年前以降に堆積したと考えられ,貞方(1972)の推論と調和的である.ユニット3基底部にみられる層厚2~4 cmの薄い砂層は,上方粗粒化する下部とそれを薄く覆うマッドドレープから構成される.粒径は幾何平均が40~240 μmで,地点間での差異は小さい.上位の層厚の大きい砂層は粒度組成変化から2~3つのサブユニット(下位から順にサブユニットA~C)に細分される.サブユニットAは薄い砂層と同様に上方粗粒化する極細粒砂~細粒砂から成り,幾何標準偏差(GSD)が4前後を示す.層厚は5~10 cm前後である.その上位のサブユニットBは層厚10 cm程度の上方細粒化する細粒砂~中粒砂から成り,GSDが4~7前後を示し他のサブユニットに比べて淘汰が悪い.サブユニットCは細礫混じりの細粒砂~中粒砂から成り,最上部で上方細粒化する.層厚は20~100 cm前後と他のサブユニットに比べて大きい.また,GSDが2~3前後を示し比較的淘汰が良く,上位に向かって徐々に淘汰が悪くなる傾向を示す.層厚の大きい砂層は,地点ごとに粒径や構成物の差異が大きく,鬼怒川の河道に近い西側ほど粒径が大きくなる傾向を示す.また,サブユニットBはGS-JIS-6コアのみで認められた.上方細粒化する特徴を示すサブユニットBは,平成27年関東・東北豪雨災害の際に鬼怒川の破堤直後に堆積した堆積物(佐藤ほか, 2017)に対比される可能性がある.

謝辞
 本研究には日本学術振興会科学研究費補助金(課題番号:16K16352,代表者:佐藤善輝)を使用した.

引用文献
貞方 昇(1971)鬼怒川下流の氾濫原の形成. 地理科学, 18, 13–22.
佐藤善輝ほか(2017)鬼怒川中流域, 茨城県常総市上三坂地区における平成 27 年 9 月関東・東北豪雨の破堤堆積物. 第四紀研究, 56, 37–50.