JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-QR 第四紀学

[H-QR06] 第四紀:ヒトと環境系の時系列ダイナミクス

コンビーナ:小荒井 衛(茨城大学理学部理学科地球環境科学コース)、横山 祐典(東京大学 大気海洋研究所 高解像度環境解析研究センター)、奥村 晃史(広島大学大学院文学研究科)、里口 保文(滋賀県立琵琶湖博物館)

[HQR06-P06] 相模川(桂川)上流域における富士相模川泥流堆積物の分布と岩相変化

*白井 正明1小林  淳2宇津川 喬子3河尻 清和4高橋 尚志1 (1.東京都立大学、2.静岡県富士山世界遺産センター、3.立正大学、4.相模原市立博物館)

キーワード:ラハール堆積物、富士相模川泥流、桂川(相模川)

ラハール(いわゆる火山泥流)とは,火山周辺で発生する火山砕屑物と水の混合物の急速な流動現象の総称である(例えば,Smith and Fritz,1989).富士相模川泥流(ラハール)は,約2.2 万年前に富士山北麓から相模川を流下した火山泥流であり(町田,2009),現在の富士山頂から約90km下流に位置する座間市付近までその露頭が確認されている(例えば,相模原市地形・地質調査会,1990).富士相模川泥流については,相模原市地形・地質調査会(1990)によって詳細な調査がなされており,少なくとも3回に及ぶ大規模なラハールの流下が発生したことなどが明らかになっているが,大月より上流(都留市周辺)では,詳細な記載はなされていない.発表者らは桂川と,その支流であり桂川谷の北側を流れる柄杓流川(しゃくながれがわ)を踏査し,富士相模川泥流のラハール堆積物の分布及び岩相記載を行っている.
桂川谷においては,ラハール堆積物は大部分が約9千年前の猿橋溶岩流およびその上位の桂溶岩流に覆われており,主に谷の北側を流れる支流の柄杓流川沿いから報告されていた(例えば,相模原市地形・地質調査会,1990).今回の調査で,谷の南側を流れる桂川本流の田原の滝より下流側と,柄杓流川の天の滝付近より下流側では,溶岩流の下位のラハール堆積物が,河川の下刻により谷壁沿いに露出していることが確認された.田原の滝に近い都留文科大学の建造物のボーリング資料からは,上限の高度からラハール堆積物に相当すると考えられる「スコリア礫を豊富に含む暗茶灰色の礫混じり砂質ローム層」が厚さ25m程度認められる.柄杓流川沿いでの谷壁での調査結果と併せて,富士相模川ラハール堆積物は桂川谷全体を最大20 m強の厚さで埋積していると推定される.これらの堆積物は全体的な特徴として,泥および砂―細礫サイズのスコリアを基質とする,明瞭な堆積構造を有さない玄武岩礫の層であり,降下スコリア層や通常河川堆積物によって区分される厚さ 1 m弱から 3 mほどの複数のユニットから成る.または上流側から下流側に向かって以下のような特徴が認められる.(1) 柄杓流川,天の滝付近ではせき止めにより形成された水域で堆積したと考えられるシルト層が頻繁に挟まれている.(2) 天の滝から約 3 kmの範囲内では土石流堆積物と考えられる無層理の礫層から成るが,天の滝から約 4 kmの柄杓流川と桂川の合流点付近では内部構造のない細粒(中礫)層のと粗粒(大礫-巨礫)層の連続的な累重が認められ,一部はハイパーコンセントレイテッド流に遷移した可能性がある.
都留文科大学には,国際交流会館や新講義棟建設時のボーリング資料を閲覧させて頂いた.なお本発表は,首都大学東京火山災害研究センターの研究の一環としての調査結果を主体とする.
引用文献
相模原市地形・地質調査会(1990)相模原の地形・地質調査報告書(第4報).相模原市教育委員会:63p.
Smith and Fritz (1989) Geology, 17, 375-376.
町田洋(2009)相模原市史自然編.相模原市:159-165.