JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-RE 応用地質学・資源エネルギー利用

[H-RE13] 資源地質学

コンビーナ:大竹 翼(北海道大学大学院工学研究院 環境循環システム部門)、高橋 亮平(秋田大学大学院国際資源学研究科)、野崎 達生(国立研究開発法人 海洋研究開発機構 海洋機能利用部門 海底資源センター)、実松 健造(国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地圏資源環境研究部門 鉱物資源研究グループ)

[HRE13-02] 秋田県荒川マグマ-熱水系に伴う鉱脈型銅鉱化作用

*左部 翔大1渡辺 寧1緒方 武幸2早坂 康隆3 (1.秋田大学大学院国際資源学研究科、2.秋田大学国際資源学教育研究センター、3.広島大学大学院理学研究科)

キーワード:銅鉱化作用、マグマ-熱水系、流体包有物、熱水変質

斑岩型鉱化作用が欠如する東北日本火山弧には珪長質の貫入岩に隣接して銅,鉛,亜鉛を主とする中新世の鉱脈型鉱床が多数分布する.本研究では鉱床と貫入岩との関連を明らかにすることを目的として銅鉱化作用とマグマ-熱水系の解明を行った.

荒川鉱床は秋田県大仙市に位置する鉱脈型鉱床である.銅を主とし,鉛,亜鉛を伴う20条以上の鉱脈がNE系の平行脈をなして新第三系の堆積岩類及び溶岩中に胚胎されている.鉱脈群の近傍には中新世に貫入したデイサイトからなる牛沢又岩体が存在する.

牛沢又岩体中のジルコンのLA-ICP-MSによるU-Pb年齢は8.10 ± 0.30 Ma を示し,既存の鉱床の変質年代と一致する.

牛沢又岩体及びその周辺の堆積岩類は熱水変質作用を受けており,主に黒雲母-緑泥石変質帯,イライト変質帯,緑泥石変質帯,スメクタイト変質帯が累帯状に分布している.

鉱床を構成する鉱脈では,鉱化作用前期に黄銅鉱を主とする銅鉱石が,後期は銅鉱物に乏しい櫛歯状石英が形成されている.前者の石英に含まれる液相に富む気液二相包有物は268.5~276.6 ℃,5.7~7.5 wt. % の均質化温度とNaCl相当塩濃度を示す.鉱化作用後期の櫛歯状石英のステージでは結晶の内部で256.7~269.4 ℃,2.7~2.9 wt. %,外縁部で207.0~250.0 ℃,2.7~3.7 wt. %を示し,塩濃度の下限は一様に2.7 wt. %を示す.

貫入岩中の石英斑晶に網脈状に含まれる二次流体包有物はハライトを含む多相包有物と気相包有物及び気相に富む気液二相包有物からなるペアと液相に富む気液二相包有物の2つのfluid inclusion assemblageが存在する.前者はそれぞれ465.7~>487.2 ℃,55.2~>58.0 wt. %及び393.0~419.4 ℃,2.6~3.7 wt. %,後者は344.1~403.0 ℃,8.0~9.3 wt. %の均質化温度及びNaCl相当塩濃度を示す.貫入岩に伴う熱水は,熱水期前期に相分離を伴う高温・高塩濃度の流体が存在し,熱水期後期に相分離を伴わない比較的低温・低塩濃度の流体が存在したことを示す.後者の熱水は鉱脈石英中の流体包有物の均質化温度及び塩濃度に比較して50~100 ℃程度高温で,0~2 wt. %高い塩濃度を示す.

以上の結果は鉱床と貫入岩の間に熱水の挙動と年代値に基づく時空的な関連を示し,約8Maに貫入したデイサイト質マグマから分離した熱水期後期の熱水が深所の火成岩類との水-岩石反応を経て裂罅系に流入し,温度の低下によって銅鉱化作用をもたらし,海水の混入を経て鉱脈群が形成されたことを示唆する.