JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT16] 環境トレーサビリティー手法の開発と適用

コンビーナ:陀安 一郎(総合地球環境学研究所)、Ki-Cheol Shin(総合地球環境学研究所)、山下 勝行(岡山大学大学院自然科学研究科)

[HTT16-05] 浅間火山濁川の水の硫黄同位体比分析

横山 裕矢1、*勝田 長貴1香川 雅子1内藤 さゆり1森本 真紀1由水 千景2陀安 一郎2川上 紳一3 (1.岐阜大学教育学部、2.総合地球環境学研究所、3.岐阜聖徳学園大学教育学部)

キーワード:硫酸イオン、硫黄同位体比、源泉水、トゥファ

浅間火山は日本列島でも有数の活動的な火山のひとつであり、その南麓には高濃度の鉄と炭酸を含む濁川源泉が存在する。そこから流れ出た水中ではCO2脱ガスに伴う方解石が沈殿し、さらには縞状堆積物として沈積している。その縞状構造は、年間を通じた河川水の水質観測とトゥファ最表層の薄片観察から、夏季に形成される針状の方解石の縞と冬季の多孔質な方解石の縞が繰り返す年層であることが明らかとなっている(Katsuta et al. 2019)。我々は、活火山地帯では初めて確認された濁川トゥファに記録される環境変動情報を明らかにすることを目的とし、トゥファの化学組成と同位体比の高分解能分析と、源泉からトゥファ堆積場の約4.5 kmの範囲の水の化学成分と同位体比分析を進めている。この中で、本発表では、河川水の硫酸イオンの硫黄同位体比(SO42-34S)分析を通じて、水及びトゥファ中の源泉の寄与の検討結果を報告する。

観測は源泉2箇所と源泉から下流4.5 kmの5箇所に設けた定点で2ヶ月毎に行われ、水質調査と採水が行われた。現地では、各種ハンディーメータを用いた水温、pH、EC、ORP、DO測定、中和滴定によるアルカリ度測定、浮子法による流量計測を行った。河川水のSO42-34S試料については、HClとBaCl2溶液を用いてBaSO4固定した後、ろ過と乾燥処理により粉末試料を回収し、メノウ乳鉢で粉砕混合させたものを準備した。そして、総合地球環境学研究所のS-IRMSを用いて、SO42-34S分析が行われた。

濁川のSO42-34Sは、年間を通じて源泉で33~37‰を示し、下流にかけて急激に27~28‰へ減少する。これは、源泉から下流にかけて、δ34S値の低いHS-やS0の酸化によるSO42-の付加によると考えられる(2HS- + 5/2O2 → SO42- + H2O + S0)。また、下流のトゥファ堆積場では、一時的にSO42-34Sが上昇する地点が存在する。これは、1年間を通じて確認された。このことは、トゥファ堆積場には、湧水が存在することを意味する。

浅間火山では、2004年9月に中規模噴火が発生し、その記録がトゥファ方解石の炭素同位体比の負の異常値(5.0 ‰)として検出された。これは、噴火活動により、低いDIC-δ13C(-11 ‰ ~ -9 ‰)を持つ源泉の影響によるものと考えられた。しかし、源泉からトゥファを採取した場所は、約4.0 km離れているため、どのようなに源泉影響が強まったか不明であった。今回の分析結果から、トゥファ堆積場の湧水影響が噴火活動で強まり、トゥファ方解石δ13Cに記録されたと見なすことができる。