JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT16] 環境トレーサビリティー手法の開発と適用

コンビーナ:陀安 一郎(総合地球環境学研究所)、Ki-Cheol Shin(総合地球環境学研究所)、山下 勝行(岡山大学大学院自然科学研究科)

[HTT16-09] 土壌撹乱によってもたらされる土壌小型節足動物の栄養ニッチシフト:炭素窒素安定同位体分析をもちいた評価

*原口 岳1藤本 修平2佐藤 圭一郎2長谷川 元洋2 (1.大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所、2.同志社大学 理工学部 環境システム学科)

キーワード:土壌小型節足動物、食物網、炭素窒素安定同位体比

土壌動物にとって地表面の有機物層は、鉛直方向に異質性の高い生息環境であると共に、エネルギーや栄養素の源となるエンドメンバーである。その異質性は、地表面の有機物は表層にリターとして堆積し (L層) 、分解が進むにしたがって深層のF層やH層と呼ばれる残渣へと改変されることを通じて形成される。それゆえ、有機物層の流亡や局在化によって有機物層が変化することは、生態系の撹乱が土壌動物の種組成に対して影響を及ぼす作用機序のひとつである。いっぽう、撹乱による有機物層の変化が、生態系において土壌動物群集が果たす機能的特性を決定づける、捕食-被食を通じた生物間相互作用、すなわち食物網構造にもたらす影響はほとんど分かっていない。そこで、環境撹乱に対する土壌小型節足動物の応答を食性の点から解明することを目的として、リター除去区および対照区で採集した土壌動物の炭素窒素安定同位体比を比較し、有機物層への撹乱に対する種間・栄養段階間の応答の仕方の相違点を検討した。

リター除去の効果を明瞭化するために、操作実験は植物種組成およびリターの化学組成が均質な上賀茂試験地の単相植栽ヒノキ林においておこなった。4 m四方のリター除去区を3区画設定し、その除去区に隣接する2 m ✕ 4 mの2区画を対照区とした。更に、全区画を2 m四方のサブプロットに分割し、各サブプロットから土壌コアを採取し、ツルグレン装置を用いて土壌小型節足動物を抽出した。土壌コアのうち一方から抽出された節足動物は目から亜目まで分類し、抽出されたササラダニ (腐植食者)、ケダニ (捕食者もしくは微生物食者)、トゲダニ (捕食者)、トビムシ (腐植食者)を全て弁別して分析に供した (目レベル分析)。もう一方の土壌コアから抽出された試料から四種のトビムシを選別し、種毎に分析した。併せて、各サブプロットから採取した地表の有機物を四層に分けて分析したものをエンドメンバーの同位体比と定義した。乾燥重量が0.2 mgを超える試料が得られなかった場合は細管仕様のEA-IRMSを用いて同位体分析をおこなった。リター操作が各種試料のδ13C値・δ15N値におよぼす効果を評価するためには、AIC基準による、区画の違いによる効果をブロック効果として考慮したGLMMのモデル選択を用いた。同位体分析結果は4種類に分類した有機物層・目レベル試料・種に分類したトビムシ試料のデータに分割して、それぞれにサンプルタイプと実験処理の効果を含むモデルから変数選択を適用し、実験区の効果が見られた場合にはポストホックにサンプルタイプごとに実験処理の効果を評価した。

リター除去の効果はトビムシのδ13C値・δ15N値および、目レベルで測定した試料のδ15N値、有機物層のδ15N値に影響を及ぼした。腐植食者のδ13C値には減少傾向、捕食者・微生物食者のδ15N値には増大傾向が見られたのに対し、有機物層のδ15N値には一貫した傾向が見られなかった。4種のトビムシの比較から、深層に生息するトビムシほど高いδ13C値・δ15N値を示すことが確認され、腐植食者の種に応じた利用資源の相違がδ13C値・δ15N値に表れることが確認された。リター除去によってトゲダニはδ15N値が平均1.7‰増大し、リター除去の結果捕食者がより深層の腐植食者を捕食するようになったことが示された。目レベルで分類して測定したトビムシ試料ではδ13C値・δ15N値の顕著な変化は観測されなかったのに対して、個別のトビムシ種の分析では、最大0.5‰のδ13C値の減少・最大0.7‰のδ15N値の増大が起きていた。この結果は種レベルでは腐植食者の摂食内容に植物由来物質の直接摂食へと摂食内容の変化が生じるのと同時に、種組成に相補的変化が生じ、群集全体としてのδ13C値・δ15N値には顕著な変化が認められなかったことを示すものと考えられた。