JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT16] 環境トレーサビリティー手法の開発と適用

コンビーナ:陀安 一郎(総合地球環境学研究所)、Ki-Cheol Shin(総合地球環境学研究所)、山下 勝行(岡山大学大学院自然科学研究科)

[HTT16-P05] 微量元素をトレーサーとした西条平野の窒素・リン負荷の解析

*徳増 実1申 基澈2山田 佳裕3 (1.愛媛大学大学院連合農学研究科、2.総合地球環境学研究所、3.香川大学農学部)

キーワード:環境トレーサー、アンチモン、人為的負荷

1.はじめに
愛媛県西条平野の河川水源は加茂川から直接導水される灌漑用水、加茂川から涵養される浅層地下水、西条平野の背後地から供給される深層地下水と多岐にわたる。水源の定量的な把握は困難であるが、徳増他(2018)はアンチモンを指標とし、河川水の起源を定量的に解析する方法を提案した。本研究ではこの方法を用いて、河川水の起源を解析するとともに、各水源からの窒素・リンの負荷量及び平野からの人為的負荷の影響を明らかにした。

2.材料と方法
2019年4月19日、20日に加茂川右岸の西条平野の中小河川、水路に43ヶ所において表流水を採取すると共に中小河川、水路については流量を測定した。採取した水について、ICP-MS で多元素の分析を、流量については電磁流速計を、全窒素と全リンの分析については吸光光度法を用いた。

3.結果および考察
各水源(灌漑用水、浅層地下水、深層地下水)のアンチモン濃度用いて、任意の地点の水源の割合を算出し、各水源の窒素及びリン濃度を乗ずることにより、人為的な影響のない自然由来の濃度を算出した。また、各地点の自然由来濃度に流量を乗ずることにより、自然負荷量を求めた。最下流の地点は、Stn. 11、22、23、32、33、34、36、38、39の9地点である。
全窒素濃度は加茂川からの灌漑用水で1 mg/L程度、浅層、深層地下水で0.5 mg/L程度であった。最下流地点の水の起源割合から見積もった自然由来の濃度は平均579 μg/L、負荷量は104 kg/dayであった。一方、実測の平均濃度は532 μg/L、負荷量は95 kg/dayと自然負荷に比べて若干少なく、人為的負荷による収支の増加はみられなかった。これは、人為的な増加分は河床での粒子の捕捉、水生植物による吸収や脱窒などの自然浄化の範囲内であることを示している。
全リン濃度は加茂川からの灌漑用水で10 μg/L程度、浅層、深層地下水で10~30 μg/L程度であった。窒素同様に最下流の水の起源割合から見積もった自然由来の濃度が21 μg/L、負荷量が3.7 kg/dayであった。一方、実測値の平均濃度は36 μg/L、負荷量は6.4 kg/dayと自然負荷の1.7倍であった。リンに関しては、収支上は自然負荷の0.7倍のリンが河川水中に存在していることになり、自然浄化を上回る人為的負荷があることを示している。
窒素には脱窒といった水中からの除去機構が存在する。また、農業に用いられる化成肥料の窒素/リン比は重量比でほぼ1:1と生物由来の物質の窒素/リン比より高い。これらのことが、人為負荷によるリンが窒素に比べて河川水中に残存しやすい原因として考えられる。
窒素には脱窒といった水中からの除去機構が存在する。また、農業に用いられる化成肥料の窒素/リン比は重量比でほぼ1:1と生物由来の物質の窒素/リン比より高い。これらのことが、人為負荷によるリンが窒素に比べて河川水中に残存しやすい原因として考えられる。