JpGU-AGU Joint Meeting 2020

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[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT18] 浅部物理探査が目指す新しい展開

コンビーナ:尾西 恭亮(国立研究開発法人土木研究所)、青池 邦夫(応用地質株式会社)、横田 俊之(国立研究開発法人 産業技術総合研究所)、井上 敬資(国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構)

[HTT18-04] 福島県で実施した簡易熱応答試験から得られた見かけ熱伝導率と浅部地下地質との関係

*石原 武志1冨樫 聡1金子 翔平1内田 洋平1神宮司 元治1須藤 明徳2宮田 弘幸2加藤 邦康2 (1.国立研究開発法人 産業技術総合研究所、2.福島県地中熱利用技術開発有限責任事業組合)

キーワード:簡易熱応答試験、従来型熱応答試験、見かけ熱伝導率、地質、地下水、福島県

1.はじめに
再生可能エネルギー利用形態の一つである地中熱利用システムの導入に際し,原位置での熱応答試験により地盤の熱伝導率(見かけ熱伝導率)を精度よく推計することで,最適なシステム設計を実現できる(地中熱利用促進協会,2014).しかし,新規掘削や熱交換器敷設を必要とする従来の熱応答試験は,試験のコストや簡易性などの点に課題があり,地中熱利用システムの普及を阻害する一因になると考えられる.一方,神宮司ほか(2002,2010)は,建築確認申請時に行う標準貫入試験用の地質調査孔を活用する簡易熱応答試験を考案した.簡易熱応答試験は従来型熱応答試験と比較して高精度・安価・簡易な試験を可能とする.また,見かけ熱伝導率は地下水流れの影響を受けるため,簡易熱応答試験は地下水環境(地下水流れの活発な帯水層や難透水層の推定)の調査法としても有用であり,地下浅部(数十m)の熱物性や地下水データの蓄積にも貢献可能と考えられる.
(国研)産業技術総合研究所と福島県地中熱利用技術開発有限責任事業組合(ふくしま地中熱LLP)は,地中熱システム導入における簡易熱応答試験の有効性の実証評価と標準化を目的として,2018年度から福島県内で調査を進めている.本発表では, 2018年度に福島県中通り(福島市,郡山市,須賀川市など)15地点で実施した簡易熱応答試験から得られた見かけ熱伝導率値(λ値)と浅部地下地質の対応関係について考察する.

2. 手法:簡易熱応答試験
15地点において,掘削した地質調査孔(孔径66 mm,深度51 m,ノンコア)内に設置したボーリングロッド(外径40.5 mm)を水で充填した後,バインドされた長さ50 mのケーブルヒーターと多点温度センサー(1 m間隔,51点)を挿入し,定電力出力装置を用いて20 W/mで加熱した.加熱時間は48時間以上,加熱停止後の温度回復時間は60時間以上で,その間の温度データを取得した.加熱時の温度グラフから作図法(地中熱利用促進協会,2014)によってλ値を求め,掘削時のスライム試料から推定された地質(岩相)ごとにλ値を分類し,度数分布にまとめた.

3. 結果と考察
各岩相のλ値([W/(m・k)])の特徴は以下のとおりである.礫層は0.8~3.3の値をとり,一部≧4.0の値をとるものもみられた.λ値のピークは1.6,次いで2.0・2.1である.砂層は概ね0.8~2.4の値をとり,ごくわずかに2.8以上の高値がみられる.ピークは1.4である.泥層は0.8~2.2の値をとり,2.4以上の高値もごく少数みられる.ピークは1.2である.凝灰岩(火砕流堆積物を含む)は0.8~1.8の値をとり,ピークは1.2である.花崗岩は1.8から≧4.0まで幅広い値が得られ,ピークは3.1である.以上の値は,文献値(地中熱利用促進協会,2014;有効熱伝導率)と概ね調和的である.各岩相のλ値度数分布は正規分布に近い形状を示すが,全体的にやや右に凸の傾向がみられる.これは,地下水流れの影響を強く受けた地層でλ値が大きくなっているためと考えられる.帯水層となる礫層はλ値分布が右に凸になる傾向が顕著である.また,花崗岩のλ値頻度が3.6以上で再び増加するのも,亀裂内を地下水が流れていることを示している可能性がある.
各地点の深度別λ値をグラフ化し,地質柱状図と並べてみると,局所的に高値・低値のピーク(1点~数点)が認められる.高値のピーク(λが3を超える場合も多い)は,礫層や花崗岩で出現することが多い.一方,低値のピークは,礫層中や礫層・砂層の間に泥層が2~3 m程度挟まる箇所で認められる.高値のピークは,地下水流れが活発である可能性を示唆する.花崗岩を除きλ値が3を超えた場合は,λ値推計に用いた厳密解を導く境界条件との乖離が激しく,評価値が物理的な意味をなさなくなるが, これは,熱移流効果の影響がより強く働いているためと考えられる.一方,λ値が急に低くなる傾向がみられることは,低値のピークが泥層などの難透水層の存在を示唆するものと期待しうる.

文献地中熱利用促進協会 2014. 地中熱ヒートポンプシステム 施工管理マニュアル.173p. 神宮司ほか 2002. 地熱学会誌 24: 349-356. 神宮司ほか 2010. 地熱学会誌 32, 185-191.