JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT18] 浅部物理探査が目指す新しい展開

コンビーナ:尾西 恭亮(国立研究開発法人土木研究所)、青池 邦夫(応用地質株式会社)、横田 俊之(国立研究開発法人 産業技術総合研究所)、井上 敬資(国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構)

[HTT18-P05] 石巻市桃生町における表層地質による地震動の増幅に関する研究

*水谷 圭佑1小田 義也1 (1.首都大学東京大学院)

キーワード:微動アレイ探査、基盤、地震応答特性、加速度応答スペクトル、伝達関数、局所被害

桃生町は宮城県北東部石巻市に位置する町で,石巻市北西部一帯が桃生町にあたる.小田・戸田(2011)は石巻市桃生町東浜街道沿い約3.8kmを対象に単点微動観測46点を実施しH/Vスペクトルから卓越振動数を調査した.また,家屋被害については八幡・山崎(2008)の方法を採用し,目視により桃生町310棟の家屋を被害の度合いが大きい方から順にAからFまでランク付けし,H/Vスペクトルと家屋被害の関係を調査した.その結果,特に卓越振動数が2.5Hz以上の地点と被害A,Bランクの場所が良く一致することがわかり,かつ家屋被害が大きい箇所では複数のピークや2~4Hz付近まで卓越振動数に幅を持つものが多いことがわかった.しかし,卓越振動数が2.5Hz以上の地点すべてで被害が大きいわけではなく,阪神淡路大震災の際大きな被害を出した1Hz付近に卓越振動数を持つ地域での被害が小さかった事実があり,より詳細な地下構造,そして,増幅特性を解明する必要があるなどの課題が残されている.

そこで本研究は小田・戸田(2011)において調査された東北地方太平洋沖地震の桃生町における家屋の被害ランクと,極小アレイおよび不規則アレイを用いた微動アレイ探査によって得られたS波速度構造,および桃生町における東北地方太平洋沖地震の際の地震応答を比較することによって桃生町における地震動の増幅を評価することを目的としている.

本研究では微動アレイ観測を東浜街道沿いの直線距離約4kmの範囲の27地点で行った.この観測結果をもとにCenterless Circular Array(CCA)法(Cho et. al., 2006)により分散曲線を算出する.次に,焼きなまし法によるS波速度構造の推定を行った.焼きなまし法における初期モデルはSIM(Simplified Inversion Method)(Pelekis and Athanasopoulos, 2011)より推定した簡易的なS波速度構造及び近傍のボーリングデータを使用した.この結果を使用し1次元重複反射理論に基づく等価線形解析プログラム(SHAKE91)を用いた桃生町における東北地方太平洋沖地震における地震応答特性についての解析を行った.本解析では主に加速度応答スペクトル,伝達関数に着目して考察を行った.

微動アレイ探査の結果,桃生町中心部において基盤構造が浅い位置に見られ,北部,南部に向かうにつれて基盤が深い位置に見られることがわかった.また,桃生町南部は基盤の落ち込みが大きく,北部よりも深い位置に基盤が見られることがわかった.この基盤構造は実際のボーリングデータと照らし合わせると大貫層の深度と概ね一致している.

また,S波速度構造と被害ランクを比較した結果,桃生町中心部ではAVS30の値が大きいにも関わらず被害が大きかった.そこで桃生町における東北地方太平洋沖地震の際の加速度応答スペクトルおよび伝達関数と家屋被害の分布を比較したところ,家屋被害の大きかった桃生町中心部では0.25〜0.5秒付近の波が他の地域より大きく応答することがわかった.しかし,これは周期1〜2秒の加速度応答スペクトルが家屋被害に影響を及ぼすという従来の解釈に合わない結果となっている.そこで過去の被害地震の1995年兵庫県南部地震や2004年新潟県中越地震と中津山第二小学校における加速度応答スペクトルを比較した結果,周期1秒付近にピークが見られる一方で,木造家屋の固有周期と一致する0.25〜0.5秒付近にもピークが確認できることがわかった.つまり,周期1〜2秒だけでなく0.25〜0.5秒付近の加速度応答が木造家屋の被害に影響を及ぼしている可能性がある.また,桃生町中心部は2〜3Hz(約0.3〜0.5秒)付近の振動が増幅しやすい構造となっており,このことが桃生町中心部において深刻な被害を発生させた要因である可能性がある.