[HTT19-03] 浸水状況把握のリアルタイム化に関する研究について
キーワード:洪水、AI、深層学習、湛水量、超高感度カメラ、ヘリサットシステム
近年、令和元年台風19号はじめ大きな水害が相次ぎ、災害対応のために浸水状況の迅速な把握が喫緊のものとなっている。国土地理院では、平成29年度~令和元年度に「浸水状況把握のリアルタイム化に関する研究」と題し、1)防災ヘリによる映像からの浸水範囲の自動検出システムの開発(担当:大野)、2)精度の高い湛水量の把握手法の確立(担当:岩橋)、3)夜間の浸水状況把握手法の検討(担当:中埜)、の3つの研究開発を実施した。本発表では、研究全体の成果の概要を紹介する。
1)においては、洪水時に国土交通省の各地方整備局の防災ヘリから国土地理院に伝送される画像を用い、機械学習(AI)によって濁水部を自動検出し、その位置をネットワークノードにアップロードするシステムを開発した。本システムは、防災ヘリの映像伝送システムであるヘリサットシステムと連携して動作するように構築しており、各防災ヘリの撮影開始をトリガーとして、自動的に浸水の検出処理を開始する。ヘリサットシステムで伝送されてくる1秒ごとの静止画像(1コマ)をもとに、6コマおきに検出を行い、浸水範囲をポリゴンデータとして抽出する。さらに、同時に伝送されるカメラパラメータを参考にポリゴンデータを正射変換し、それまでに作成されたポリゴンデータに次々にマージしていくことで浸水範囲ポリゴンとなる。浸水範囲ポリゴンは、地図への投影が可能なKML形式のデータとして保存する。斜め撮影画像での自動検出及び地図投影にも成功したことで、撮影後30秒以内での浸水範囲の検出及び地図投影を実現した。実用システムの構築にも着手し、撮影開始後概ね2分間隔で次々に最新の浸水到達範囲を更新していくシステム構築を実現した。
2)においては、空撮画像を元にした水際の位置情報から湛水量を求める様々な手法について検討し、最適な計算手順をまとめた。湛水量の正解データとしては、国交省の浸水シミュレーションデータを用いた。これは空撮画像同様、ある時点での浸水状況のスナップショットであり、水文工学でオーソライズされた手法により作成されている。検討手法は次の通りである。まず、空撮画像から判読した水際の情報を利用することを想定し、浸水シミュレーションデータの水際の点群のみを使い、複数の計算手法で水面標高モデルを作成した。この時、浸水領域全体を把握できない想定で、外周全部ではなく少数の水際点しか使わないケースについても検討した。作成した水面標高モデルと5mDEMとの差分で浸水深及び湛水量を求めた後、どのような手順で水面標高モデルを生成すれば正解データに近くなるのか検討した。検討結果から、動水勾配があり浸水領域全体を位置精度良く把握できているケースではNatural Neighbor法を使った内挿補間で曲面を、他は水際点の平均標高で平面を生成することが適当であることがわかった。ただし、平面を生成する場合はケースによって領域を区切る必要がある。また、水際の点群のうち、他点との標高差が大きい外れ点の識別も移動平均を取れば可能であることがわかった。
3)においては、夜間の浸水状況の把握に有効と考えられるセンサ候補を調査し、夜間運用が比較的容易なヘリコプターに装備可能で、入手や操作が容易なセンサとして、超高感度カメラと熱赤外線カメラを選定した。それらのセンサについて、ヘリコプターによる上空からの性能試験と地上での補足試験を実施し、夜間観測への適用可能性を調査した。その結果、超高感度カメラが夜間における浸水域把握に実用的であり、最適ISO感度は51200~102400の間、すなわち市販の中級レベル以上の一眼レフカメラであれば撮影可能であることがわかった。熱赤外線カメラは水域を識別可能だったが、様々な条件の影響を受けやすいため、補足的な併用が有効と考えられる。なお現状では防災ヘリ等の夜間運用は制限されている。
以上のとおり、本研究により、防災ヘリの撮影と同期したほぼリアルタイムによる浸水範囲のマッピングと、より正確な湛水量の算出手法が確立され、今後水害が発生した際の災害対応時に活用していく見込みである。
1)においては、洪水時に国土交通省の各地方整備局の防災ヘリから国土地理院に伝送される画像を用い、機械学習(AI)によって濁水部を自動検出し、その位置をネットワークノードにアップロードするシステムを開発した。本システムは、防災ヘリの映像伝送システムであるヘリサットシステムと連携して動作するように構築しており、各防災ヘリの撮影開始をトリガーとして、自動的に浸水の検出処理を開始する。ヘリサットシステムで伝送されてくる1秒ごとの静止画像(1コマ)をもとに、6コマおきに検出を行い、浸水範囲をポリゴンデータとして抽出する。さらに、同時に伝送されるカメラパラメータを参考にポリゴンデータを正射変換し、それまでに作成されたポリゴンデータに次々にマージしていくことで浸水範囲ポリゴンとなる。浸水範囲ポリゴンは、地図への投影が可能なKML形式のデータとして保存する。斜め撮影画像での自動検出及び地図投影にも成功したことで、撮影後30秒以内での浸水範囲の検出及び地図投影を実現した。実用システムの構築にも着手し、撮影開始後概ね2分間隔で次々に最新の浸水到達範囲を更新していくシステム構築を実現した。
2)においては、空撮画像を元にした水際の位置情報から湛水量を求める様々な手法について検討し、最適な計算手順をまとめた。湛水量の正解データとしては、国交省の浸水シミュレーションデータを用いた。これは空撮画像同様、ある時点での浸水状況のスナップショットであり、水文工学でオーソライズされた手法により作成されている。検討手法は次の通りである。まず、空撮画像から判読した水際の情報を利用することを想定し、浸水シミュレーションデータの水際の点群のみを使い、複数の計算手法で水面標高モデルを作成した。この時、浸水領域全体を把握できない想定で、外周全部ではなく少数の水際点しか使わないケースについても検討した。作成した水面標高モデルと5mDEMとの差分で浸水深及び湛水量を求めた後、どのような手順で水面標高モデルを生成すれば正解データに近くなるのか検討した。検討結果から、動水勾配があり浸水領域全体を位置精度良く把握できているケースではNatural Neighbor法を使った内挿補間で曲面を、他は水際点の平均標高で平面を生成することが適当であることがわかった。ただし、平面を生成する場合はケースによって領域を区切る必要がある。また、水際の点群のうち、他点との標高差が大きい外れ点の識別も移動平均を取れば可能であることがわかった。
3)においては、夜間の浸水状況の把握に有効と考えられるセンサ候補を調査し、夜間運用が比較的容易なヘリコプターに装備可能で、入手や操作が容易なセンサとして、超高感度カメラと熱赤外線カメラを選定した。それらのセンサについて、ヘリコプターによる上空からの性能試験と地上での補足試験を実施し、夜間観測への適用可能性を調査した。その結果、超高感度カメラが夜間における浸水域把握に実用的であり、最適ISO感度は51200~102400の間、すなわち市販の中級レベル以上の一眼レフカメラであれば撮影可能であることがわかった。熱赤外線カメラは水域を識別可能だったが、様々な条件の影響を受けやすいため、補足的な併用が有効と考えられる。なお現状では防災ヘリ等の夜間運用は制限されている。
以上のとおり、本研究により、防災ヘリの撮影と同期したほぼリアルタイムによる浸水範囲のマッピングと、より正確な湛水量の算出手法が確立され、今後水害が発生した際の災害対応時に活用していく見込みである。