JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-AG 応用地球科学

[M-AG44] 福島原発事故により放出された放射性核種の環境動態

コンビーナ:津旨 大輔(一般財団法人 電力中央研究所)、高橋 嘉夫(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、恩田 裕一(筑波大学アイソトープ環境動態研究センター)、北 和之(茨城大学理学部)

[MAG44-15] 福島県で採取した環境試料の放射能と環境動態

*佐藤 佳子1,2,4管家 拓巳1,3芳賀 さくら1,5吉田 汐里1,6一條 祐里奈1,7熊谷 英憲2眞壁 明子2渋谷 岳造2 (1.独立行政法人国立高等専門学校機構 福島工業高等専門学校、2.海洋研究開発機構、3.東京海洋大学、4.岡山理科大学、5.宇都宮大学、6.クレハ化学、7.日本原子力開発機構)

キーワード:環境拡散、同位体、環境放射能

2011年に発生した東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故により、大量の放射能が環境中に放出され、人体や食品、土壌や水などの周囲の環境に放射性物質の拡散を及ぼした。早川マップによれば、福島県は南北に連なる阿武隈山地と奥羽山脈によって県内に吹く風などにも影響を与えており、会津、中通り、浜通りの三つの地方に、地形と当時の気象条件によって拡散したことが分かっている。

 大気中に放出された放射性物質は風によって運ばれ、最終的に大気中から除去されて地表に沈着する。その際、セシウムは大気中で粒子として存在しやすいため、大気濃度が高い地域に雨が降った場合に沈着量が多くなる(ホットスポット)。そのため、2011年のシミュレーションによれば、風によって放射性物質が輸送され、且つ、降水があった福島県東部、宮城県南部、関東北部、西部等の地域で沈着量が多く計算されている。本研究では県内2地域6地点の土壌や水のサンプルにより距離ごとの環境放射能の動態、更に震災前後のサンプルを比較することにより放射能の濃度変化を観察することを目的としている。

 使用した土壌、降水などについては2018年に喜多方市、2017~2019年にいわき市の土壌と降水について採取した。試料として採取した土壌は自然乾燥させ、食品放射能分析装置を用いて放射能計測を行った。その後ブランクと合わせてサンプルを4種類作成した。更に、マッフル炉で土壌を灰化処理し、同様に4種類のサンプルを作成した。後、同様にサンプルを作成した。その後、各サンプルを密閉したテフロンPFAジャー内で加熱しながら硝酸(HNO3)とフッ酸(HF)により酸分解を行った。十分に溶解したことを確認後、容器の蓋を外し、蒸発乾固を行った。その後再度硝酸を加え、サンプルを溶解させ、ポリ瓶に移し、全量が100mlになるように超純水を加えて試料溶液とした。さらに、それを10倍、100倍、1000倍に希釈した試料溶液を0.02mol硝酸溶液に調製した。その後、ICP-MS・ICP-OESによりサンプルの分析を行った。

 土壌サンプルをICP-MS・ICP-OESにより分析した結果、喜多方市、いわき市どちらのサンプルからもAl, Fe, Ca, K, Na, Mgをはじめとする金属元素が検出された。それらは、土壌に特徴的に含まれている元素であり3)、その中でもアルカリ金属であるCa, K, NaなどをCsなどと比較して環境影響評価を行った。133Csは天然に安定に存在する同位体であり周期律表のセシウム存在の100%の値を示しているが、福島原発の事故由来の環境中に存在する134Csや137Csを測定することで、その環境中での比率を検討し、採取地点による値の変化が原子炉からの距離と離れた場合は、同位体比が下がると推定された。未知試料にはアルカリ金属が多く含まれ、134Csは4半減期を過ぎようとしているため、今回検出されなかった。環境影響として考察するため、137Cs/133Csの同位体比とアルカリ金属元素の分析を行う。