JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-AG 応用地球科学

[M-AG44] 福島原発事故により放出された放射性核種の環境動態

コンビーナ:津旨 大輔(一般財団法人 電力中央研究所)、高橋 嘉夫(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、恩田 裕一(筑波大学アイソトープ環境動態研究センター)、北 和之(茨城大学理学部)

[MAG44-P04] スギ樹幹近傍の土壌への福島原発事故由来の放射性セシウムの選択的浸透過程

*飯田 光1加藤 弘亮1篠塚 友輝1赤岩 哲1横山 達也1Sean Hudson1Janice Hudson1恩田 裕一1 (1.筑波大学アイソトープ環境動態研究センター)

キーワード:放射性セシウム、浸透水、樹幹流、森林土壌、福島第一原子力発電所事故

樹幹流は、森林土壌への集中的な雨水の流入経路となるほか、樹木根系に沿った選択的な浸透流である根系流を発生させることで、根圏の水物質循環に影響を及ぼすとされている。しかし、樹幹流が雨水浸透に及ぼす影響について、土壌浸透水を採水して分析し、定量的に評価した例は少ない。また、福島第一原子力発電所事故により放出された放射性セシウムは主に森林樹冠で遮断され、樹冠通過雨や樹幹流により森林土壌へと移行している。特に樹幹基部では、放射性セシウム濃度が高い樹幹流が流入することにより土壌中の濃度も高くなることが報告されており、経根吸収を促すことが懸念されるものの、調査は土壌のみに留まり、土壌浸透水の放射性セシウム濃度や浸透フラックスを分析した例は少ない。
 そこで本研究では、福島県浪江町のスギ林を対象として、樹幹流量と、ゼロテンションライシメーターを用いて樹木根付近(Rd : root downslope)および樹幹から離れた樹木間(Bt : Between trees)における土壌浸透水量を観測し、それらに含まれる福島原発事故由来の溶存態137Cs濃度を測定した。サンプリングは2019 年の6 月24 日から12 月11 日に実施し、期間中の降水量は1100 mmであった。その結果、樹幹流のBasal areaあたりの雨水のフラックスは樹冠通過雨よりもはるかに多く、溶存態137Cs濃度は樹冠通過雨に比べて5倍程度大きい値を示した。また、土壌浸透水について、樹幹に近いRdの方がBtと比べて浸透フラックスは大きく、採水期間の単位林外雨量あたりの浸透水量は5 cm深度で1.4倍、20 cm深度で3.0倍もBtに比べて大きな値を示し、特にRdの20 cm深度では樹冠通過雨量よりも大きかった。一方、溶存態137Cs濃度は、Rdの方がBtに比べて5 cmで1.6 倍、20 cm深度で1.5 倍と高い値を示した。観測期間中の土壌への溶存態137Csの浸透フラックスはRdとBtの5 cm深度でそれぞれ1.15 kBq/m2と0.73 kBq/m2、20 cm深度で0.73 kBq/m2と0.16 kBq/m2であった。
 以上の結果から、樹幹流による雨水流入が大きい樹幹基部では、樹冠通過雨が主な雨水インプットである樹木間と比較して雨水の浸透フラックスが多く、特に20 cm深度では樹冠通過雨量以上の浸透が発生することが明らかになった。また溶存態137Csについても、濃度が大きい樹幹流が流入する樹幹基部では、濃度が低い樹冠通過雨が主に流入する樹木間よりも土壌浸透水の濃度は高く、多量の浸透水により溶存態137Csの浸透フラックスが大きくなることが明らかになった。しかし、本研究の観測データのみでは、樹幹基部の土壌浸透水のうち樹幹流に由来する雨水成分が占める割合や、放射性セシウム濃度に及ぼす影響を定量化することはできない。土壌浸透水量および溶存態137Cs濃度に対する樹幹流の寄与を定量的に把握するためには、水の安定同位体比など複数のトレーサーを併用した解析を行うほか、根を伝う選択浸透流(根系流)そのものを採水し、樹木根付近における詳細な雨水浸透メカニズムを解明することが今後求められる。