JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-AG 応用地球科学

[M-AG44] 福島原発事故により放出された放射性核種の環境動態

コンビーナ:津旨 大輔(一般財団法人 電力中央研究所)、高橋 嘉夫(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、恩田 裕一(筑波大学アイソトープ環境動態研究センター)、北 和之(茨城大学理学部)

[MAG44-P07] スギ林における樹冠通過雨中の放射性セシウム濃度の形成メカニズム

*篠塚 友輝1加藤 弘亮2恩田 裕一2赤岩 哲1 (1.筑波大学 大学院 生命環境科学研究科 環境バイオマス共生学専攻、2. 筑波大学アイソトープ環境動態研究センター)

キーワード:樹冠通過雨、放射性セシウム、樹冠遮断、モニタリング

2011年3月に発生した福島第一原発事故 (FDNPP)により、放射性物質が大気中に放出された。特に長半減期のCs-137は長期的な放射線源となるため、環境中での動態を明らかにすることが必要である。陸域に沈着した放射性Csのうち、およそ70%が森林に蓄積されていると推定されており、森林環境中での放射性Cs動態を理解することが重要であると考えられる。森林、特に常緑針葉樹に沈着した放射性Csの大部分は樹冠による遮断を受けて捕捉され、その後、降雨やリターに伴って林床へと移行していくことがわかっている。
樹冠通過雨は、特に事故初期において樹冠から林床への放射性Csの主要な移行経路であったが、時間経過とともにその濃度は指数関数的に減少した。しかし、近年では樹冠通過雨中の放射性Cs濃度の低減速度が鈍化する傾向が認められており、林床への長期的な放射性Csのインプット経路としてモニタリングが必要である。さらに、樹冠通過雨中の放射性Cs濃度は、樹冠被覆によって、また季節や降雨イベントごとに大きな変動を示すことが確認されており、樹冠から雨水への大気降下物質の溶出メカニズムの解明に役立つ可能性がある。
そこで本研究では、福島県浪江町のスギ林を調査対象として、樹冠通過雨中の放射性Cs濃度の形成機構について調査を実施した。林内外に設置した雨水サンプラーを用いて、樹冠通過雨(12箇所)及び林外雨(3箇所)を採取し、雨量と放射性Cs濃度を定量した。それらの観測結果に基づいて、樹冠通過雨量の空間分布特性と放射性Cs濃度の変動要因の解析を行った。
樹冠通過雨量とサンプラー上部の開空度の間に相関が認められたことから、スギ樹冠下での雨量分布には樹冠構造が影響していることが示唆された。また、雨水の樹冠通過率は、イベント雨量とともに高くなる傾向を示した。樹冠通過雨の放射性Cs濃度は、樹冠通過雨量の増加とともに小さくなる傾向を示すことから、雨量の増加にともなって希釈される効果が働いている可能性が高い。放射性Cs移行フラックスは、林分単位では樹冠通過雨量の増加とともに移行フラックスも増加する傾向を示した。しかし、イベント雨量が比較的大きい場合でも移行フラックスが小さい観測例も得られている。放射性Csの濃度形成には雨量の影響が大きいが、降雨特性の違いによる遮断プロセス、空間分布の変化によって傾向が変化し、移行量に影響を与える可能性が示唆される。