JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-AG 応用地球科学

[M-AG44] 福島原発事故により放出された放射性核種の環境動態

コンビーナ:津旨 大輔(一般財団法人 電力中央研究所)、高橋 嘉夫(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、恩田 裕一(筑波大学アイソトープ環境動態研究センター)、北 和之(茨城大学理学部)

[MAG44-P08] 落葉広葉樹リターの分解度合の違いにおける物性と溶存態放射性セシウムの溶出挙動の変化

*佐々木 祥人1新里 忠史1伊藤 聡美1渡辺 貴善1 (1.国立研究開発法人日本原子力研究開発機構)

キーワード:放射性セシウム、落葉広葉樹、リター層、福島第一原子力発電所事故

はじめに

東京電力ホールディングス福島第一原子力発電所(以下、1F)事故により放射性セシウムが放出され、陸域に沈着した放射性セシウムの約7割が、森林に沈着した。生活圏となっていない大部分の森林は当面除染される予定がなく、また、これまでの長期観測から森林地表面から河川水系への流出率は、1年間に総沈着量の0.1%程度と極めて低いことが示されている[1]。

1F事故後、森林において放射性セシウムはリター層に多く存在したものの、数年で土壌層に移行した。それらは、放射性セシウムが土壌中の粘土鉱物に強く吸着される性質を持つため、表層土壌にその多くが留まっている。しかしながら、現在も放射性セシウムが新葉においても含まれており、リターとして林床に供給されている。リター等の有機物には放射性セシウムが粘土鉱物のように強く吸着されないため生物に取り込まれやすい溶存態放射性セシウムとして溶出するものと考えられる。林床の有機物層は、その分解度合によって次のように分類される:Litter(L) 比較的新しくほとんど分解されていない、もとの形を保持している。Fermentation(F) 肉眼による観察で元の形がわかる程度に分解されている。Humus(H) 肉眼による観察で元の形がわからない程度分解されている。しかし、これらの有機物の分解度合の違いによる放射性セシウムの移行挙動の違いについてはこれまでほとんど報告がない。本報告では、落葉広葉樹の有機物の分解度合の違いにおけるリターの物性と溶存態放射性セシウムの溶出挙動の変化について調査した結果について報告する。



材料および方法

使用したリターは、福島県内の落葉広葉樹林で採取した。2016年3月に集めた大きな枝を除いたリター(L)を、リターの分解を促進させるために容量160Lのコンポスターに入れ、蓋を開けたまま2016年10月まで林内に放置した(N=2)。コンポスター内の腐葉土化した有機物の一部をさらに分解させるために、約10Lの容器中に腐葉土と腐葉土を餌とする甲虫の幼虫を入れ、2017年4月3日まで屋内で静置し肉眼による観察で元の形がわからない程度分解まで、腐葉土を分解させ腐植化した有機物(H)を得た。この際、腐葉土に甲虫の幼虫を入れず静置した有機物をFとした。それぞれの有機物の分解度合は、スキャナーまたは顕微鏡により撮影した画像の投影面積を測定し確認した。これらの有機物の陽イオン交換容量(CEC)を測定した(N=3)。それぞれ分解度合の異なる有機物からの放射性セシウムの溶出率の測定は以下のように行った(N=5)。有機物を風乾後に容量500mLの容器に約10gずつ分注し10倍量(約100mL)の純水を加えた。その後、ロータリーシェーカー(25℃、150rpm)で48時間旋回振盪した。溶液を集めた後、孔径0.45μmのメンブレンフィルターでろ過し、ろ過液は、容量100mLの容器(U8容器)に入れ溶存態放射性セシウムの濃度をGe半導体検出器で測定した。ろ過残渣は、105℃で乾燥した後粉砕し、U8容器に入れ放射能測定に供した。有機物からの137Cs溶出率は、有機物に含まれていた137Cs量に対する溶出した137Cs量の百分率とした。



結果

コンポスター内でリターを分解させた過程で、リターの投影面積は、LからFに分解する際に約1/10になり、FからHでは約1/1000になった。甲虫の幼虫により腐葉土は、粉砕され分解が進み、葉の形が肉眼で観察できない程度にまで分解が進んだ。有機物の放射性セシウム濃度は、LおよびFは約6kBq/kg-乾燥重量であったが、FからHの分解に伴って約8kBq/kg-乾燥重量に増加した。次に得られた分解度合の異なるリターからの溶存態放射性セシウムの溶出について調べた。分解度合の異なる有機物 L, F, Hから溶出してきた溶存態放射性セシウムの溶出率は、それぞれ約14, 1.6, 0.5 %であり、Lが最も高く、分解が進んだF, HにおいてはLの溶出率の1/10程度になっていた。このことから、林床における有機物からの溶存態放射性セシウムの溶出においては、その分解段階により溶出しやすさが異なることが明らかになった。また、陽イオン交換容量は分解に伴って増加し、溶存態放射性セシウムの溶出率との相関が認められた。この結果は、分解に伴う有機物の物性変化により、林床の有機物からの溶存態放射性セシウムの溶出率が変化することを示唆した。



[1]Niizato et al., 2016, J. Environ. Radioact. 161, 11-21.