[MAG44-P09] 山地流域の渓畔林−渓流生態系における放射性セシウム動態評価
キーワード:放射性セシウム、時系列変化、環境動態、森林生態系、流域管理
福島第一原子力発電所事故の事故から9年が経過したが、森林には未だに多くの放射性セシウム(137Cs)が存在している。放射性物質による汚染地域の約70%が森林であり、137Csの物理的半減期は30.2年と長いことを考慮すると、森林環境における放射性セシウムの動態を評価することは重要な課題である。特にスギ人工林では、主要餌資源であるスギリター(落葉・落枝)から高次捕食者である魚類へ食物網を介した137Csの移行が確認されるなど、137Csの動態は渓畔域と渓流内の両方の生態系と関連している一方で、多くの先行研究は片方の生態系や特定の生物種のみに注目している。本研究では、福島県二本松市東和地区の山地上流域で2012-2013と2016-2017の2期間に行われたサンプリング結果に基づいて、137Cs濃度の時系列変化を調べた。全採取項目(渓畔域・渓流内のスギリター、水生・陸生昆虫、イワナ(Salvelinus leucomaenis))において137Cs濃度の著しい減少がみられた。また、この結果に基づいて、環境中の放射性核種の時系列変化を表す指標として用いられる生態学的半減期(Teco)の計算を行った。Tecoは1.6〜3.9年と計算され、渓畔域のスギリターで最小、渓流内のスギリターで最大の値であった。今回計算されたTeco値は先行研究と比較して小さく、上流域の渓畔・渓流生態系では栄養循環が速いため、汚染度が比較的早く減少すると考えられた。また、渓流内のTecoは渓畔域より大きく、渓畔域では汚染度の低いリターが栄養源となる一方で、渓流域では137Csを吸着しやすい堆積物やPOMの再懸濁により、高い汚染度が維持されることが示唆された。