JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-GI 地球科学一般・情報地球科学

[M-GI40] 計算科学による惑星形成・進化・環境変動研究の新展開

コンビーナ:林 祥介(神戸大学・大学院理学研究科 惑星学専攻/惑星科学研究センター(CPS))、小河 正基(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻)、井田 茂(東京工業大学地球生命研究所)、草野 完也(名古屋大学宇宙地球環境研究所)

[MGI40-04] 全球非静力学火星大気大循環モデルによるダスト巻き上げ輸送計算

*樫村 博基1八代 尚2西澤 誠也3富田 浩文3中島 健介4石渡 正樹5高橋 芳幸1林 祥介1 (1.神戸大学大学院理学研究科惑星学専攻、2.国立環境研究所地球環境研究センター、3.理化学研究所計算科学研究センター、4.九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門、5.北海道大学大学院理学院宇宙理学専攻)

キーワード:火星大気、全球シミュレーション、非静力学モデル

地球大気の運動は数メートル規模から惑星規模に至るまで幅広く、様々な規模の現象が相互作用している。このことが、より高解像度の大気シミュレーションが求められる理由の1つである。こうした状況は、火星をはじめとした他の惑星でも同様なはずである。火星では数十から数百メートル規模のダストデビル (塵旋風) から、数十キロメートル規模のローカルダストストーム、全球を覆うグローバルダストストームまで、大小様々な規模の砂嵐が観測されているが、これらのスケール間の相互作用は未解明である。また火星は大気が薄く海がないため、昼夜間の寒暖差が大きく、鉛直対流が卓越すると考えられるが、全球規模の大気大循環に対するその役割は解明されていない。これらの謎に挑むためには、水平数キロメートル解像度の高解像度全球大気計算が求められる。また鉛直対流を陽に表現するために、非静力学の方程式系で計算する必要がある。

そこで我々は、大型計算機「富岳」で火星高解像度計算の実現を目指し、全球非静力学火星大気モデル (火星版SCALE-GM) を開発している。SCALE-GM (http://r-ccs-climate.riken.jp/scale/) は、正二十面体準一様格子法 (Tomita et al., 2001, 2002) による地球大気の全球非静力学モデルNICAM (Tomita & Satoh, 2005; Satoh et al., 2008; Satoh et al., 2014)の力学コアを基に、領域モデル (SCALE-RM) との物理過程モジュールの共通化や他の惑星大気計算など、より幅広い応用を目指して開発が進められている大気大循環モデルである。我々はSCALE-GMに、火星大気用の定数や放射・地表面過程などの物理モジュールを組み込んだ火星版SCALE-GMを開発している。開発は、既存の汎惑星大気大循環モデルDCPAM (https://www.gfd-dennou.org/library/dcpam/) の火星物理モジュールを移植する形で進めている。なおDCPAMは静力学平衡を仮定した方程式系をスペクトル法で解く、伝統的な全球大気モデルである。

我々はこれまでに、DCPAM物理モジュールのうち、火星大気放射モデル (一部 Forget et al., 1999) と土壌モデルを移植し、以下に記す設定の下で、格子点間隔 1.9 kmの高解像度3次元計算を実現した。大気は鉛直36層、ダストは光学的厚さ0.2の固定分布とし、土壌は18層、熱容量 9.7×105 [J K−1 kg−1]、熱伝導率0.076 [W m–1 K–1] とした。地表アルベドは0.5とし、地表面フラックスはBH91B95 (Beljaars & Holstang, 1991; Beljaars, 1995)、鉛直拡散はMY2.5 (Mellor & Yamada, 1982)、初期値は200 Kの等温静止大気・土壌として高解像度計算を実現した (樫村 他, 2019)。この計算では、地表アルベドが高い点、地形および凝結過程は導入していない点に注意されたい。

本研究では、上記の火星版SCALE-GMに対して、ダストの巻き上げパラメタリゼーション (Kahre et al., 2006)、ダストの重力沈降過程 (Lin & Rood, 1996)を導入して、ダストの巻き上げ・輸送・沈降過程を計算できるようにした。まず、非静力学化・高解像度化によって表現される鉛直対流とそれに伴う大きな地表面応力によって、ダストがどの程度、巻き上げられ、輸送されるかを調べるために、放射的に不活性なダスト (すなわち放射はダスト分布に依らない) で計算を行った。図は計算開始から26日目から5日間で時間平均したダスト混合比の東西平均子午面分布とダスト巻き上げ率の東西平均分布を、水平格子間隔dxが60 km、30 km、15 kmの場合について示している。水平解像度が高い方が上空まで多くのダストが到達している (図上段)。これは、高解像度の方がダスト巻き上げ率が高いこと (図下段) に加え、鉛直対流による上方輸送が大きいことが要因だと想像される。本発表では、ダスト分布に対応した放射加熱・冷却を入れた計算についても紹介し議論したい。