JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-GI 地球科学一般・情報地球科学

[M-GI40] 計算科学による惑星形成・進化・環境変動研究の新展開

コンビーナ:林 祥介(神戸大学・大学院理学研究科 惑星学専攻/惑星科学研究センター(CPS))、小河 正基(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻)、井田 茂(東京工業大学地球生命研究所)、草野 完也(名古屋大学宇宙地球環境研究所)

[MGI40-P01] ラージエディシミュレーションに必要とされる大気力学コアの数値精度に関する研究

*河合 佑太1富田 浩文1 (1.理化学研究所 計算科学研究センター)

キーワード:大気境界層乱流、ラージエディシミュレーション、力学コアの離散精度

1. はじめに
スーパーコンピュータの計算資源の増加とともに, 全球大気モデルで解像できる空間スケールは,ラージエディシミュレーション(LES)が対象とする空間スケールに迫りつつある. そのときの問題の一つは, 非静力学大気モデルの力学コアに適用される数値スキームの精度であると考えている. なぜならば, 低次精度の有限体積法による移流スキームと関連した数値粘性が, Smagorinsky-Lilly 型の乱流モデルによってパラメータ化される乱流混合を卓越してしまう可能性があるからである. 惑星境界層乱流の LES に必要な力学コアの数値精度を, 3 次元一様等方乱流の理論に基づいて定式化することを試みる. さらに, 導いた条件が実際の計算で当てはまるかを確認する.

2. LES に必要な数値精度の条件の導出
空間スケール lΔx (l=1,2,.., Δx は格子幅)に対する, 渦粘性項による減衰の e-folding 時間と 2n 階微分の数値粘性項による減衰の e-folding 時間の比(R)は,

R= (m/π)4/3 * (2πCs)2 /(|U| γadv) * (l/π)2(n-1) * (Δx)1/3

と得られる. ここで, 3 次元一様等方乱流の理論に基づいて、渦粘性係数に含まれる歪み速度テンソルの大きさを格子幅と関連づけた(ただし, ηは数値実験から決める). Cs は Smagorinsky 定数, m は空間フィルタ長に対する Δx の比, γadv は背景の移流速度 |U| と関連させた数値粘性の無次元強度である. 風上スキームの数値粘性は, 風速に比例して陰的に決定されるが, 中心スキームでは陽に数値粘性を指定する. 数値粘性が渦粘性を卓越しないためには, 有効解像度において R >>1であることが重要である. しかし, 解像度の増加とともに, R は減少する傾向がある. 次に, 典型的な大気 LES の計算で数値粘性の影響を調べ, R が取りうる値を考察する.

3. 数値実験による検証
[設定]
Nishizawa et al. (2015) と同様の惑星境界層乱流の理想実験を, 様々な空間精度の移流スキームを用いて実施する. 実験には, 領域非静力学モデルSCALE-RM を使用する. 領域は 9.6 x 9.6 x 3 km3 にとる. 初期条件として, 安定成層した大気に温位擾乱を与える. 初期の水平背景風は 5 m/s であり, 下端で 200 W/m2の熱フラックスを与え続ける. 移流スキームとして, 3, 5次精度の風上スキームによる実験(UD3, UD5 と書く)と, 2, 4, 6 次精度の中心スキーム(CD2, CD4, CD6 と書く)による実験を行う. 中心スキームには, 数値粘性を陽に付加する. その減衰の時定数は2倍の格子幅のスケールに対して約1分とし, 微分階数(ND)は基本的に CD2, CD4, CD6 における分散誤差の卓越項を消すように, それぞれ 2, 4, 6 を選択するが, Nishizawa et al. (2015)と同様に, CD4ND8 の実験も行う. いずれの実験でも, 空間格子幅は 10 m であり, 積分時間は 4 時間である.

[結果]
どの移流スキームでも, 慣性小領域のエネルギースペクトルは, 格子サイズの約 8-10 倍(このスケールをここでは有効解像度と呼ぶ)から短波長で, -5/3 乗則を下回る(図(a)). 中心スキームと比べて風上スキームで得られる場は拡散的であり, 有効解像度より短波長に渡って, 3, 5 次精度の風上スキームから得られるエネルギースペクトルはそれぞれ, 弱い数値粘性を陽に付加した 2, 4 次精度の中心スキームに比べて小さい. 移流項の空間離散化に風上スキームを用いる場合は, 5 次精度以上は必要であることが示唆される. 上述の数値実験の結果から η を大まかに決定し, 各スキームに対する R の Δx, l に対する依存性を調べた(図(b)) . 数値実験の結果と整合的であり, LES に必要な移流スキームの離散精度を考察する上で, 今回定式化した R が大まかな指針となることも示された.

4. 今後の課題
時間離散化の影響や, 全ての項を高次精度で離散化した場合の効果を検証したい. また, 後者を行うときに適した力学コアの数値計算法を探索したい.