JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS01] 津波堆積物

コンビーナ:石村 大輔(首都大学東京大学院都市環境科学研究科地理学教室)、千葉 崇(秋田県立大学生物資源科学部)、山田 昌樹(信州大学理学部理学科地球学コース)、石澤 尭史(東北大学 災害科学国際研究所)

[MIS01-10] 津波堆積物と数値シミュレーションに基づく波源の推定

★招待講演

*佐竹 健治1楠本 聡2 (1.東京大学地震研究所、2.海洋研究開発機構)

キーワード:津波、津波波源、津波堆積物

津波数値シミュレーションによる浸水域と津波堆積物の分布との比較に基づく波源の推定は,北海道東部の地震(Satake et al., 2008,EPS)や貞観地震(Sawai et al., 2012, GRL)などについて行われていたが,2011年東北地方太平洋沖地震の際には津波浸水域と堆積物の分布域が一致しなかった.そこで,2011年津波の仙台・石巻平野における津波堆積物の最奥地点での浸水深(1m以上)や流速(0.6 m/s以上)を数値シミュレーションで計算し,その値を用いて,貞観地震の波源や規模を再検討したところ,従来よりも大きな規模が推定された(Namegaya and Satake, 2014, GRL). 具体的には,一様すべりの場合は断層長さ200 km以上, すべり量12 m以上,Mw 8.6 以上,2011年と同様な不均質すべりの場合には断層長さ300 km以上, Mw 8.8 以上であった.

津波堆積物の分布から,逆問題として,流速と浸水深を推定する試みがなされている(例えば,Naruse and Abe , 2017, JGR) . 津波波源の性質によって,振幅や流速に加えて,卓越する周期やピークの数,継続時間なども異なる.たとえば遠地津波は長時間継続することが多い(Satake et al., Earth-Science Reviews,印刷中).ここでは,高橋らによる土砂移動モデル(2012, 堆積学研究)を使った研究を紹介する.

高橋らのモデルでは,津波シミュレーションから計算される底面付近でのせん断応力を用いて,掃流砂層(bed load layer)と浮遊砂層(suspended load layer)内での砂量と層間の交換砂量の連続式を解き,浸食砂量・堆積砂量を計算し,実測と比較する.従来のモデルは単一粒径についてのものであったが,Gusman et al. (2018, Marine Geology)は水理実験に基づき,0.063 (4ϕ) ~ 5.657mm (−2.5ϕ)の混合粒径に拡張した.そして,三陸海岸宮古市沼の浜における2011年津波堆積物の粒度分布と比較し,その妥当性を確認した.さらに,堆積物の層厚や粒度分布は,入力津波の振幅や周期に依存することを示し,堆積物とシミュレーションから波源を推定できる可能性を示した.

楠本(2018,博士論文)は,太平洋沿岸3地点(福島県井田川低地帯,仙台平野,沼の浜海岸)における2011年津波の堆積物分布について,土砂移動モデルを適用した. Satake et al. (2013, BSSA)のモデルに加え,すべり量分布や規模を変えた10個の波源モデルについて計算したところ,堆積物の分布や層厚が大きく変化した.また,海岸林の有無が,堆積物分布に大きく影響することも明らかにした.さらに,869年貞観地震の津波堆積物の分布とも比較し,その波源域が2011年東北地方太平洋沖地震よりも小さかった可能性を示した.