JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS01] 津波堆積物

コンビーナ:石村 大輔(首都大学東京大学院都市環境科学研究科地理学教室)、千葉 崇(秋田県立大学生物資源科学部)、山田 昌樹(信州大学理学部理学科地球学コース)、石澤 尭史(東北大学 災害科学国際研究所)

[MIS01-P02] 十勝長節湖において観察される過去2500年間15層の谷埋め型津波堆積物の層相記載とその再来間隔の評価

*重野 聖之1七山 太2,5渡辺 和明2石井 正之3深津 恵太4 (1.明治コンサルタント株式会社、2.産業技術総合研究所地質情報研究部門、3.石井技術士事務所、4.野付半島ネーチャーセンター、5.熊本大学くまもと水循環・減災研究教育センター)

キーワード:谷埋め型津波堆積物、千島海溝、超巨大地震、500年間隔地震、北海道、太平洋沿岸

北海道東部太平洋沿岸域では,100~数10年ごとに繰り返すM8クラスの海溝型地震以外にも,Mw 8.5~9クラスの十勝沖と根室沖の震源が連動する連動型超巨大地震が300~500年間間隔で繰り返し発生することが明確になっている(Nanayama et al., 2003; Nanayama, 2020).これまで過去20年間の研究成果によって,十勝海岸~根室海岸の巨大津波痕跡層序は概ね確立されたと考えて良い.しかし,巨大津波の再来間隔はおおむね300~500年間隔であっても,地域によって津波堆積物の数が異なることから,推定される津波の規模や再来周期については明確になっていない.特に記録される津波堆積物の枚数は,地形や堆積環境によって規制され,特に谷地形を充填する堆積物中においては,周囲の湿原環境よりも津波堆積物の出現頻度が高いことが,これまでの研究報告でも度々知られていた.

十勝長節湖は,幅約1.8 km,奥行きは最大約1.5 kmの汽水湖であり,湖の南西端に季節的に砂州が切れて潮流口が出現することが知られている.この潮流口南岸には高さ約9 mの海食崖の大露頭が連続して出現している.ここでは,上部鮮新統〜更新統の長節層(珪藻質シルト層)を浸食する幅50〜100 m程の二筋の開析谷が存在し,この谷地形を層厚約3.5 mの完新世の泥炭層が埋積している.15層の津波起源の可能性が高いイベント砂層は,この泥炭層中に挟在されている.イベント砂層は主に細粒砂~シルト質砂からなり,層厚は数cmから数10 cm,明瞭な級化構造や浸食基底を持ち,基底部に径1〜2 cmの亜円〜亜角礫を含むものも存在する.含まれる砂粒子はその淘汰度から海成砂起源と推察される.

泥炭層中には4層の明瞭な完新世テフラの挟在が確認され,このうち肉眼観察と周辺地域の既存のテフラ層序研究から,最上部のテフラはTa-b (1667年;樽前山起源),最下部のテフラはTa-c (2.5 cal kyr BP;樽前山起源)と推察される.これらのテフラから得られた年代値を用いて過去2500年間のイベント砂層の再来間隔を概算すると,約150年となる.この値は十勝沖+根室沖連動型地震に伴う津波によってもたらされたと考えられている300〜500年を有意に下回る.この場合は千島海溝で発生した100~数10年ごとに繰り返すM8クラスのプレート間地震による津波も同時に保存されている可能性が示唆される.但し,少なくとも露頭観察のみでは,各イベント堆積物をもたらした地震や津波の規模を判別することは難しいと判断される.



引用文献

Nanayama, F., Satake, K., Furukawa, R., Shimokawa, K., Shigeno, K., Atwater, B.F., August 2003, Unusually large earthquakes inferred from tsunami deposits along the Kuril Trench. Nature, 424, 660–663.

Nanayama, F., 2020, Evidence of giant earthquakes and tsunamis of the 17th-century type along the southern Kuril subduction zone, eastern Hokkaido, northern Japan: A review. (SP501) CHARACTERIZATION OF MODERN AND HISTORICAL SEISMIC–TSUNAMIC EVENTS, AND THEIR GLOBAL–SOCIETAL IMPACTS, Geol. Soc. London, DOI: 10.1144/SP501-2019-99.