JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS01] 津波堆積物

コンビーナ:石村 大輔(首都大学東京大学院都市環境科学研究科地理学教室)、千葉 崇(秋田県立大学生物資源科学部)、山田 昌樹(信州大学理学部理学科地球学コース)、石澤 尭史(東北大学 災害科学国際研究所)

[MIS01-P05] 元素組成データを用いた機械学習による津波堆積物の対比法の検討

*上谷 知久1後藤 和久2石澤 尭史1手塚 寛1エリック ベラスコ1石村 大輔3佐藤 憲太1 (1.東北大学、2.東京大学、3.首都大学東京)

キーワード:津波堆積物、機械学習

古津波の規模や再来間隔を議論するためには,古津波堆積物の分布範囲を推定することが重要であり,その広域的な対比を行う必要がある.ボーリングやジオスライサー等を用いた掘削により多地点から得られた津波堆積物の対比は,その堆積学的特徴や堆積年代から実施されてきた.しかし,津波堆積物の層相は,数十m離れた地点で採取されたコア同士でも大きく異なる場合があり,堆積学的特徴のみでは地点間対比が困難なことが多い.さらに年代測定も広域で掘削された多くのコアについて多点的に行うとなると予算的な制約が伴う.そこで本研究では,津波堆積物の地球化学的な特徴に基づく対比法を検討した.

 具体的には,試料を非破壊で簡便に測定可能な蛍光X線コアスキャナを用いて津波堆積物の元素組成を測定し,その結果を多地点で比較した.そして,それらの元素組成データから定量的な対比を行うために,判別・分類手法であるSVM(サポートベクターマシン)という機械学習法を用いて解析を行った.この方法による津波堆積物の分類にもとづく対比結果と,従来の堆積学的特徴や年代測定結果による対比結果を比較し,機械学習による津波堆積物の対比法の有用性を検討した.

 本研究では以上のことを検証するために,岩手県山田町船越地区の沿岸湖沼においてハンディジオスライサーにより約3 mの柱状試料を数本採取した.これらの試料中には,14世紀から現代にかけて,2~4層のイベント堆積物が確認され,層相や周囲の地形条件からこれらを津波堆積物と認定した.これらの試料のうち,代表的な1本の試料中に含まれる津波堆積物(4層)の元素組成データを教師データとし,他の2本の試料中に含まれる津波堆積物(5層)のデータを未知データとして機械学習による解析を行った.その結果,機械学習法のみでは1つの津波堆積物に対して複数の対比候補が推定されることもあり,正確に対比が行えるとは言えないが,適切な対比候補を絞り込むことはできた.従来の対比法に加えてこの新たな対比法を用いることで,年代測定点数の削減,堆積学的特徴をもとにした対比の確度を高める,などのメリットが得られると考えられる.そのため,機械学習は今後の津波堆積物の広域対比を行う上で一つのツールとして有効に活用できる可能性がある.