JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS05] 新生代におけるアジアモンスーンおよびインド太平洋古気候

コンビーナ:山本 正伸(北海道大学大学院地球環境科学研究院)、Steven C Clemens(Brown University)、Hongbo Zheng(Research Center for Earth System Science, Yunnan University)、多田 隆治(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)

[MIS05-05] 日本海北海道西方沖(IODP Site U1422)における藻類バイオマーカーに記録された過去70万年間の海洋表層環境の変動

*鈴木 朝子1沢田 健1矢能 冴紀1風呂田 郷史2入野 智久3 (1.北海道大学大学院理学研究院、2.産業技術総合研究所、3.北海道大学大学院地球環境科学研究院)

キーワード:IODP、藻類バイオマーカー、日本海、第四紀、ジオール、アルケノン

【はじめに】

 日本海は4つの海峡によって外洋から隔てられた縁海であり、その表層は対馬暖流(TWC)とリマン寒流、深層は日本海固有水が占めるという特徴的な環境が発達している。第四紀における氷期・間氷期変動に伴い、その海水準は大きく変動を繰り返し、表層環境もそれに合わせて様相を大きく変化させてきた。日本海北部は、最終氷期には海水準の低下によって陸橋が形成されていたことが知られており、人類の北海道への進入など人類学、考古学的にも重要と目されているが、研究があまり進んでいないことからその古環境については未だに不明な点が多い。

 そこで、本研究では日本海北部で採取された堆積物コアを用いて、過去70万年間に注目し、バイオマーカー分析を行った。古水温の指標として頻繁に用いられてきたのはハプト藻によって生成されるアルケノンを利用したものだが、本研究ではそれに加え、珪藻および真正眼点藻によって作り出される長鎖アルキルジオールを用いた指標を応用した。ジオールは近年、水温のみならず湧昇強度や淡水流入の指標としても有用性が高いという報告がなされており、多角的な古海洋環境の解析に役立つと期待される。

【試料と方法】

 試料として、2013年に行われた統合深海掘削計画(IODP第346次航海において、日本海盆北部(北海道西沖)U1422地点(43°45. 99’N, 138°49. 99’)から採取された深海掘削堆積物コアを用い、現在〜MIS16(約700 ka)の期間に着目して研究を行った。分析方法としては、凍結乾燥処理した試料を有機溶媒で抽出した後に、シリカゲルカラムによって無極性〜極性成分に分画した。全ての極性の画分をGC-MSおよびGC-FIDを用いてバイオマーカー分析した。

【結果と考察】

 アルケノンおよびジオール古水温はともに氷期・間氷期サイクルに同調した変動を示した。MIS2から3にかけてアルケノン古水温がジオール古水温に比べ特に高いという結果が得られた。この理由は、アルケノン生産者がこの時期のみ特異的な種であった可能性が高い。それ以外で見られる2種類の古水温の差は、各化合物の生産者の生育深度やブルーミングの季節の違いによるものと考えられる。

 また、ジオール分析から湧昇強度の変動を復元したところ、全体的に低い値で、日本海北部は湧昇があまり発達しない海域であったことが推測される。しかし、氷期には比較的高い値を示しており、氷期の海面冷却によって鉛直混合が促進されていたことが伺えた。

 さらに、河川水流入の指標とされるC32 1, 15-diolを分析したところ、氷期から間氷期への過渡期および氷期の中でも比較的温暖な時期に上昇する傾向が認められた。これは、氷期に陸上に蓄積した氷雪が融解し、河川を通じて海洋に流出した可能性が考えられる。グローバル規模の融氷イベントであるMWP 1aとタイミングの重なるスパイクも見られることから、試料採取地点である日本海北部でもその影響を受けていたことが示唆された。