[MIS07-P01] 氷衛星の氷地殻–内部海境界の条件下におけるクラスレートハイドレートの生成に伴うメタンの同位体分別
キーワード:メタンガス、氷衛星、クラスレートハイドレート、同位体分別、圧力依存性、撹拌速度
氷衛星では、有機物を含んだ海氷粒子などで構成されるプルームが噴出している事から、地球外生命体が存在する可能性がある。カッシーニによる調査から、プルームには水素分子(H2)や二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、有機物が含まれる事(e.g. Porco et al. 2006; Waite et al. 2006, 2009, 2017)が明らかにされてきた.。特にCH4は、CH4生成菌によるCH4生成反応など、微生物による生命活動の指標として重要視されている。プルームにおけるCH4の生成過程には、微生物由来の他にも初生のCH4や岩石での地質化学的な生成などもあることから、CH4の存在を検知するだけでは、微生物による生命活動があると言い切ることができない。上記の現状を踏まえ、本研究では、近い将来行われる氷衛星・氷惑星の微量ガスの同位体測定を見据え、CH4の安定炭素・水素同位体(δ13C, δD)の分別の素過程について、氷衛星・氷惑星の環境を模した室内実験により評価する。これを切り口として、生物起源のCH4寄与による同位体分別の定量的な推定を行うことを目的とする。
本研究では、氷地殻–内部海界面でCH4ガスを捕捉し、プルームとしてガスを放出するまでの過程に影響を及ぼすクラスレートハイドレート(Kieffer et al. 2006)に着目し、その同位体分別の程度の評価を行う。地球内の圧力条件(P: ~6 MPa)では、CH4ハイドレートの生成に伴い、CH4のδDにのみ同位体分別(~10‰)が起きていることが既存研究により確認された(Hachikubo et al. 2007, 2015; Lapham et al. 2012)。本研究では、より高い圧力を有するエンケラドスやエウロパの氷地殻–内部海境界の条件(P: 5–50 MPa)におけるクラスレートハイドレートの形成に伴う同位体分別を調査した。
クラスレートハイドレート試料の生成には、50 MPaまで圧力を保持できるバッチ式特殊環境ハイドレート生成装置を用いた。試料の調製において、高圧セルの温度を室温から275 Kに下げた後、85または400 RPM の速度で純水とCH4の撹拌を行った。ガスの導入は、既存の研究例より少し高めの範囲の圧力(5または10 MPa)で行った。CH4ガスは、試料生成前のもの(初期ガス)、および、試料生成後にセル内に残ったもの(残ガス)を30 mLバイアル瓶に採集し、東京工業大学にあるGC-IRMSを用いて安定同位体(δ13C、δD)の測定を行った。
同位体測定の結果、δ13C値は残ガス相の方が初期ガスより低く(差: 1‰未満)、高い圧力でより低くなる傾向を示した。この傾向から、クラスレートハイドレートの内部に13Cが、残ガス(プルームとして放出されるガス)に12Cがそれぞれ濃縮しやすく、それらの濃縮の度合は圧力が高いほど顕著になることが示唆された。更に、試料生成時の撹拌速度が高い場合に、残ガス相中のδ13C値が低くなる傾向も見られた。撹拌速度が高いほど、ハイドレート生成率、安定性、ゲストガスの貯蔵容量が高くなるとの報告例(Wijayanti 2018)があるが、上記の傾向は、同位体分別と先行研究で示されたこれらの変化との関連を示唆しうる。既報の研究例と異なり、今回は値が小さいもののδ13C値の同位体分別が確認された。圧力により同位体分別が起こりやすくなる傾向がある事から、今後より高圧力での実験を進め、同位体分別の有無やその大きさについての検討をしていく予定である。これらの傾向から、氷衛星におけるクラスレートハイドレートに伴うCH4の同位体分別は、圧力と内部海水–CH4ガスの撹拌速度に依存すると考えられる。
本研究では、氷地殻–内部海界面でCH4ガスを捕捉し、プルームとしてガスを放出するまでの過程に影響を及ぼすクラスレートハイドレート(Kieffer et al. 2006)に着目し、その同位体分別の程度の評価を行う。地球内の圧力条件(P: ~6 MPa)では、CH4ハイドレートの生成に伴い、CH4のδDにのみ同位体分別(~10‰)が起きていることが既存研究により確認された(Hachikubo et al. 2007, 2015; Lapham et al. 2012)。本研究では、より高い圧力を有するエンケラドスやエウロパの氷地殻–内部海境界の条件(P: 5–50 MPa)におけるクラスレートハイドレートの形成に伴う同位体分別を調査した。
クラスレートハイドレート試料の生成には、50 MPaまで圧力を保持できるバッチ式特殊環境ハイドレート生成装置を用いた。試料の調製において、高圧セルの温度を室温から275 Kに下げた後、85または400 RPM の速度で純水とCH4の撹拌を行った。ガスの導入は、既存の研究例より少し高めの範囲の圧力(5または10 MPa)で行った。CH4ガスは、試料生成前のもの(初期ガス)、および、試料生成後にセル内に残ったもの(残ガス)を30 mLバイアル瓶に採集し、東京工業大学にあるGC-IRMSを用いて安定同位体(δ13C、δD)の測定を行った。
同位体測定の結果、δ13C値は残ガス相の方が初期ガスより低く(差: 1‰未満)、高い圧力でより低くなる傾向を示した。この傾向から、クラスレートハイドレートの内部に13Cが、残ガス(プルームとして放出されるガス)に12Cがそれぞれ濃縮しやすく、それらの濃縮の度合は圧力が高いほど顕著になることが示唆された。更に、試料生成時の撹拌速度が高い場合に、残ガス相中のδ13C値が低くなる傾向も見られた。撹拌速度が高いほど、ハイドレート生成率、安定性、ゲストガスの貯蔵容量が高くなるとの報告例(Wijayanti 2018)があるが、上記の傾向は、同位体分別と先行研究で示されたこれらの変化との関連を示唆しうる。既報の研究例と異なり、今回は値が小さいもののδ13C値の同位体分別が確認された。圧力により同位体分別が起こりやすくなる傾向がある事から、今後より高圧力での実験を進め、同位体分別の有無やその大きさについての検討をしていく予定である。これらの傾向から、氷衛星におけるクラスレートハイドレートに伴うCH4の同位体分別は、圧力と内部海水–CH4ガスの撹拌速度に依存すると考えられる。