JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS12] XRFコアスキャナーが切り開く環境復元の新展開

コンビーナ:Huang Jyh-Jaan Steven(Institute of Geology, University of Innsbruck)、天野 敦子(産業技術総合研究所)、村山 雅史(高知大学農林海洋科学部海洋資源科学科)、汪 良奇(國立中正大學)

[MIS12-P04] XRFコアスキャナーから推定された田沢湖湖底堆積物の堆積環境の変化

*石山 陽子1石山 大三1山田 和芳2村山 雅史3林 武司4 (1.秋田大学院国際資源学研究科、2.ふじのくに地球環境史ミュージアム、3.高知大学海洋コア総合研究センター、4.秋田大学教育文化学部)

キーワード:田沢湖、湖底堆積物、堆積環境、XRFコアスキャナー、完新世

秋田県東部に位置する田沢湖は,170万年前に形成されたカルデラ湖である(鹿野ほか,2008 & 2020).水深は423mで,日本で最も深い湖である.湖が深いために湖底堆積物の採取が難しく,田沢湖湖底堆積物を利用した研究例は少ない.2015年に田沢湖から4本のコアが回収された.このコアの最下部における堆積年代は7,000年前と推定された(松岡,2016).本研究では,田沢湖南西部のカルデラ壁からおよそ1.0 km 離れた位置から採取されたTZW15-4コアについて,堆積物の相変化,粒度・密度分布,鉱物組成,蛍光X線コアスキャナー(Itrax)で得たコアの化学組成変化を解析し,7,000年間のうちに田沢湖地域で起きたイベントと気候変化を明らかにした.
コアの長さは340 cmである.基質は暗黄褐色シルトで,38枚の砂層,9枚の珪藻土層が狭在する.また,十和田中掫テフラ層,十和田aテフラ層(松岡,2016)も認められる.堆積物は肉眼観察結果より,340〜185 cm,185〜13 cm,13〜0 cmの3つの部分に分けられる.340〜185 cmは薄い砂質シルトラミナの狭在によって特徴付けられる.185〜13 cmの部分ではシルトが卓越する. 13〜0 cmの部分ではシルトの変色が認められる.堆積物の相対的な密度は,コンピューター断層撮影(CT)スキャンによって明らかになった.シルトと砂質シルトの部分は,それぞれ低密度と高密度に対応する.
コアのFe,As,Ca,Sr,Cu,PbおよびZnの連続的な濃度変化はXRFコアスキャナーで測定された.CaおよびSrスペクトルについて,CaおよびSrの強度が高い位置(CaおよびSrのピーク)は,砂質シルト層に対応するため,ピークの数に基づいてシルト中の砂質シルトの位置及び数を明確に明らかにすることができる.
TZW15-4の堆積物の年代は,14C放射年代法により推定された(松岡,2016).その年代データとXRFコアスキャナーで得られたCaのピーク数(砂質シルト層の数)に基づいて,砂質シルト層の形成頻度を推定した.砂質シルト層の形成頻度は340〜185 cmの部分と185〜13 cmの部分で異なる.340〜185 cm部分の砂質シルト層の形成頻度は1000年で6.1回と多く,185〜13 cm部分の砂質シルト層の形成頻度は1000年で1.7回と少ない.加えて堆積物の粒度分布からも,340〜185 cm部分の砂質シルト層は砂成分に富んでおり,185〜13 cm部分の砂質シルト層は砂成分が少ない.田沢湖には大きな流入河川がないため,堆積物の供給源は田沢湖外輪山に由来すると考えられる.田沢湖地域の気候が温暖な条件下では田沢湖の集水域の降水量が増加すると考えられる.その結果,堆積物が流入する頻度とその量が増加する.このメカニズムは,砂質シルト層の形成頻度が高く,砂質シルト層中の砂成分の割合も高いコアの下部(340〜185 cm)に対応する.従って,コア下部は温暖期における堆積物であると推定される.一方,コアの上部は,砂質シルト層の形成頻度が少なく,砂質シルト層中の砂成分の割合も少ない.従って,降水量が少ない寒冷期における堆積物であると推定される.14C放射年代データ(松岡,2016, 福本ほか,2019)に基づくと,340〜185 cmの部分と185〜13 cmの部分の境界は,4,700 BP前後に対応する.この年代は,日本における寒冷化開始の年代である約5,000 BPとほぼ一致する(甲本,2008;福本ほか,2019).