[MIS13-P01] 根室沖の水平・鉛直地殻変動検出のための中心海底局を加えたアレイを用いたGNSS-音響観測
キーワード:GNSS-音響測距、根室沖、海底地殻変動
近年の津波堆積物調査により、千島海溝でもM9クラスの超巨大地震が繰り返し発生することがわかってきた。このことは、根室沖のプレート境界浅部に見られる地震の空白域が、非地震性の安定すべり域ではなく、東北沖と同様に超巨大地震時の大津波発生要因となる固着域である可能性を示唆するものである。そこで、東北大学と北海道大学らの研究グループは、根室沖プレート境界の固着状態を明らかにするための測地学的・地震学的な総合調査を2019年7月に開始した。本講演では、総合調査のうちGNSS-音響観測の初期解析結果について報告する。
根室沖の海溝軸にほぼ直交する測線上の3箇所にGNSS-音響観測点を新たに設置した。陸側斜面のG21(4局、海溝軸から約100 km、水深2920 m)、G22(4局、同35 km、水深6242m)、および太平洋プレート上のG23(3局、同30 km、水深6700 m)である。今回の観測点の特異な点として、将来の無人海上プラットフォームによる自動観測に対応するため、水平変位の計測に加え、「定点観測での鉛直変位検出」が可能な海底局レイアウトをG21とG22で採用したことである。定点観測で鉛直変位を解くためには、射出角の異なるアレイセットが必要となる。DOP (Dilution of Precision)を指標とした数値実験の結果、三角形アレイの水平サイズ(外接円の半径)が水深の0.7倍以上であれば、中心に海底局を1つ加えることで効果的に射出角の違いが生じ、水平変位に匹敵する精度で鉛直変位を検出可能なことがわかった。東北大学では、海中音速の空間勾配推定を想定した大小の同心三角形からなる6局アレイの観測点を既に保有しているが、鉛直変位の検出に関しては、むしろ今回の4局アレイの方が幾何配置上は有利な結果となっている。
GNSS-音響解析では、海底局アレイ形状とキャンペーンごとのアレイ変位を解くため、各観測点上で移動観測と定点観測を実施した。本講演では、初回のキャンペーン観測のため、先ずアレイ形状を決定するための各海底局の位置決め解析について報告する。観測中に計測したCTD またはXCTDデータから算出した海中音速の深さ方向プロファイルを基準音速として、音速の時間変化による鉛直規格化走時遅延量NTD(Nadir Total Delay)を250秒毎の基底関数に展開し、アレイを構成する3つないし4つの海底局の3次元座標値と共に解いた。その結果、各海底局の位置を水平方向4.9〜13.8 cm、鉛直方向9.9〜13.2 cmの推定誤差で求めることができた。このときの走時残差のRMSは0.070〜0.085 ms であった。考察として、局位置と同時に解いたNTDの時系列値は、基準音速としたCTD/XCTDの計測のタイミングで0 ms になることが期待されるが、実際には、誤差の範囲を大きく超える 3.0 ms 程度となった。このことは、真の音速は、本解析で用いたChen & Millero (1977)による算出値の0.9996倍程度であることを意味する。
次の観測は2020年5月に予定されており、今後地殻変動量としてアレイの変位を求めていくことになる。現在、本キャンペーンの定点観測中のアレイの見かけ鉛直変位の時間変化の解析に取り組んでおり、これが定点観測による鉛直変位推定精度の一つの目安となる。講演ではこの成果についても報告する予定である。
謝辞
本研究のデータは新青丸KS19-12次航海で取得しました。北海道大学、東北大学の海底局は「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画(第2次)」および「災害科学世界トップレベル研究拠点(東北大学)」等で用意したものです。
根室沖の海溝軸にほぼ直交する測線上の3箇所にGNSS-音響観測点を新たに設置した。陸側斜面のG21(4局、海溝軸から約100 km、水深2920 m)、G22(4局、同35 km、水深6242m)、および太平洋プレート上のG23(3局、同30 km、水深6700 m)である。今回の観測点の特異な点として、将来の無人海上プラットフォームによる自動観測に対応するため、水平変位の計測に加え、「定点観測での鉛直変位検出」が可能な海底局レイアウトをG21とG22で採用したことである。定点観測で鉛直変位を解くためには、射出角の異なるアレイセットが必要となる。DOP (Dilution of Precision)を指標とした数値実験の結果、三角形アレイの水平サイズ(外接円の半径)が水深の0.7倍以上であれば、中心に海底局を1つ加えることで効果的に射出角の違いが生じ、水平変位に匹敵する精度で鉛直変位を検出可能なことがわかった。東北大学では、海中音速の空間勾配推定を想定した大小の同心三角形からなる6局アレイの観測点を既に保有しているが、鉛直変位の検出に関しては、むしろ今回の4局アレイの方が幾何配置上は有利な結果となっている。
GNSS-音響解析では、海底局アレイ形状とキャンペーンごとのアレイ変位を解くため、各観測点上で移動観測と定点観測を実施した。本講演では、初回のキャンペーン観測のため、先ずアレイ形状を決定するための各海底局の位置決め解析について報告する。観測中に計測したCTD またはXCTDデータから算出した海中音速の深さ方向プロファイルを基準音速として、音速の時間変化による鉛直規格化走時遅延量NTD(Nadir Total Delay)を250秒毎の基底関数に展開し、アレイを構成する3つないし4つの海底局の3次元座標値と共に解いた。その結果、各海底局の位置を水平方向4.9〜13.8 cm、鉛直方向9.9〜13.2 cmの推定誤差で求めることができた。このときの走時残差のRMSは0.070〜0.085 ms であった。考察として、局位置と同時に解いたNTDの時系列値は、基準音速としたCTD/XCTDの計測のタイミングで0 ms になることが期待されるが、実際には、誤差の範囲を大きく超える 3.0 ms 程度となった。このことは、真の音速は、本解析で用いたChen & Millero (1977)による算出値の0.9996倍程度であることを意味する。
次の観測は2020年5月に予定されており、今後地殻変動量としてアレイの変位を求めていくことになる。現在、本キャンペーンの定点観測中のアレイの見かけ鉛直変位の時間変化の解析に取り組んでおり、これが定点観測による鉛直変位推定精度の一つの目安となる。講演ではこの成果についても報告する予定である。
謝辞
本研究のデータは新青丸KS19-12次航海で取得しました。北海道大学、東北大学の海底局は「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画(第2次)」および「災害科学世界トップレベル研究拠点(東北大学)」等で用意したものです。