JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS17] アストロバイオロジー

コンビーナ:薮田 ひかる(広島大学大学院理学研究科地球惑星システム学専攻)、杉田 精司(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、深川 美里(国立天文台)、藤島 皓介(東京工業大学地球生命研究所)

[MIS17-P05] アルドノニトリル酢酸エステル誘導体化法による化学進化実験生成物中のアルドース分析法の検討

*安部 隼平1癸生川 陽子1小林 憲正1 (1.横浜国立大学)

キーワード:糖

1. 緒言

 糖及び糖誘導体(以降、糖類と記述)は自然界のいたるところに存在し, 生物学的プロセスに重要な役割を果たす。RNAの構成要素であるリボースはその最たる例であり, 生命の起源を議論する上で必要不可欠な物質である。様々な糖類が隕石中から多数発見されている[1], [2]ことから, 宇宙空間で生成した糖類が隕石などによって原始地球にもたらされた可能性がある。このような前生物的な糖類の生成反応として, ホルモース反応[3]が注目されている。
 これら糖類の分析の一つにアルドノニトリル酢酸エステル誘導体化法[4]がある。この方法はアルドースに対して非常に有効な分析法である。しかしこれまでの研究では, ペントースについての議論が盛んであり[2], その他の糖については深く議論されていなかった。
 そこで本研究では, ペントース以外のアルドースに対するアルドノニトリル酢酸エステル誘導体化法の有用性を検証した。更に隕石母天体内部を模擬したホルモース型反応による生成物中の糖類の分析を行った。

 

2. 実験方法
 炭素数 3~6 のアルドース(グリセルアルデヒド,エリトロース,トレオース, リボース, アラビノース, リキソース, キシロース, アロース, グルコース, ガラクトース)の標準試料をアルドノニトリル酢酸エステル誘導体化法により誘導体化させた。このようにして得た糖の誘導体をガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)に供して分析を行った。このとき、各アルドースの検出限界も測定した。
 また小天体内部での反応を想定して, 純水(Milli Q):HCHO:NH3を①100:5:5, ②100:5:1, ③100:5:0, ④100:10:0 のモル比率で混合した溶液(200μL)を150 ℃で3日間加熱し, その生成物に対しても同様の誘導体化の後にGC/MSにより分析し, 単糖類の生成の有無を検証した。



3. 結果と考察
 アルドース標準試料の分析により各アルドースの保持時間とMSスペクトルを得た。各アルドースの保持時間と主なm/z値の結果は、三炭糖:9.7分(m/z 86, 103)、四炭糖:17.7-18.0分(m/z 103, 145) 、五炭糖:24.8-26.0分(m/z 103, 115, 145)、六炭糖:31.0-33.0分(m/z 103, 115, 145)であった。これより,炭素数が1増加すると、保持時間が7分程度増加するという相関関係が認められた。
 それぞれの糖の検出限界は, 炭素数によってばらつきはあるものの, 2 μM ~ 50 μMであった。
 これらの結果と隕石母天体模擬実験によるホルモース型反応生成物の測定結果を比較したところ, 全ての試料の生成物からテトロースとヘキソースの可能性があるピークが検出された。また試料②の生成物からは, これらに加えペントースの可能性があるピークが検出された。これは試料①,③,④では, ホルモース型反応の初期の段階で生成したグリセルアルデヒドが, 未反応のホルムアルデヒドと反応してテトロースを, また, 他のグリセルアルデヒドと反応してヘキソースを形成した結果であると考えられる。または、ホルモース型反応の誘導期で生成したグリコールアルデヒドが他のグリコールアルデヒドと反応してテトロースを形成し、このテトロースが更にグリコールアルデヒドと反応することでヘキソースを形成した可能性もある。更に試料②では, 僅かに加えたアンモニアが触媒として働き, ペントースの生成が促進されたと考えられる。今後、仮説の検証のためにさらなる実験を行う。



4. 参考文献
[1] G. Cooper et al. (2001) Nature, 414, 879-883.
[2] Y. Furukawa et al. (2019) PNAS, 116, 24440-24445.
[3] H. J. Cleaves II (2008) Precambrian Res., 164,111-118.
[4] 小林 憲正他 (1989) 分析化学, 38, 608-612.