JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS20] 大気電気学:雷放電及び関連物理現象

コンビーナ:芳原 容英(電気通信大学 大学院情報理工学研究科)

[MIS20-02] MP-PAWRを用いた粒子判別と降雨推定の可能性の調査

*及川 夏依1菊池 博史1中村 賢人2牛尾 知雄3芳原 容英1 (1.電気通信大学、2.東京都立大学、3.大阪大学)

キーワード:気象レーダ、粒子判別

近年,台風やゲリラ豪雨などの降雨による気象災害が増加しており,日本各地に被害をもたらしている.短時間に高高度まで発達する積乱雲の観測を目的として,高解像度・高分解能の二重偏波フェーズドアレイレーダ(以下,MP-PAWR)が開発され,2017年に関東に設置された.MP-PAWRは,水平偏波と垂直偏波を同時に送受信する二重偏波機能を有し,仰角方向に同時に観測可能なデジタルビームフォーミングのリアルタイム処理機能を搭載した気象観測専用のフェーズドアレイレーダとなる。フェーズドアレイ気象レーダにマルチパラメータ(二重偏波)機能を追加することにより,高速3次元観測性能を保ちつつ,雨量の計測精度を格段に向上させたレーダである.この性能は世界で初である.

またこのレーダは従来型レーダでも得られるレーダ反射因子(Zh)に加えて,水平・垂直の二つの偏波を利用して,レーダ反射因子差(Zdr),比偏波間位相差(Kdp),偏波間相関係数(Rhohv)などのパラメータが得られる.

従来型レーダでは時空間分解能が低く雨滴の正確な粒径分布を得ることができず,雨滴や雪及び霰・雹などが観測範囲に混在すると反射因子を過大評価してしまう問題点がある.しかし,MP-PAWRを用いて各パラメータを得ることにより雲内の粒子の判別が可能である.このことを利用することで上空の粒子の情報が高精度に得られ,降雨推定がより正確なものになることが期待できる.

本研究では,従来型レーダでは観測できなかった上空の霰などの雨滴以外の粒子が,地上の降水強度に及ぼす影響について考察することを目的とする.

 本研究で用いる解析データは2019年5月4日15:00ごろ東京都府中付近にて,雹が降った事例である.まずはMP-PAWRのデータを用いて,本研究で利用しているファジー論理を用いた粒子判別手法[1]が有用かどうかを検証し,その後,地上での降雨強度との関連性について議論する.
 実際に雹が降った15:00ごろの粒子判別の結果表した.この図を見ると府中市が位置している23km付近の地上近くに雹が判別されているため,粒子判別手法がMP-PAWRにも有効であることが確認できた.
 次に粒子判別結果と降雨強度との関連性を議論するために,本研究では特に霰と雹と大粒子の推移について調べた.解析事例は2019年5月4日15時から16時までの1時間で30秒ごと,合計120のレーダ情報を用いた.この事例では雹が確認された他,15:25~45の間で強雨が観測されている.これをもたらしたと考えられる積乱雲に着目した.

 粒子判別結果を時系列で見ていくと、融解層付近で高密度霰が増加したのちに,それが上空へ登っていき雹に代わり,その雹の塊が地上へ降りていることが確認できた.

 そこで,時系列毎に高密度霰,雹,大粒子の推移を図示化すると,まず高密度霰が増加していきピークを迎え,それと入れ替わるように雹が増加してビークを迎えていることが確認できた.これに府中気象観測点の実際の雨量計の結果を重ね合わせてみると,雹のピークがきたおよそ10分後に降雨のピークがきていることが確認できた.また高密度霰と雹と降雨の時間間隔はおよそ10分毎であった.そのため,雲内の粒子を判別し,霰や雹の推移を観測することで局所豪雨などの予測が可能であることが確認できた.
 これらのことから,MP-PAWRから得られたレーダ情報で粒子判別を行うことで,まず雲内の粒子がどのような動きをしているかが確認でき,時系列で粒子毎の推移を表すことで豪雨の推測の可能性も確認できた.
[1] V.N.Bringi, and V.Chandrasekar,“Polarimetric Doppler Weather Radar: Principles and Applications”, Cambridge University Press, pp.379-380, 2001.