JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS21] ジオパーク

コンビーナ:田所 敬一(名古屋大学地震火山研究センター)、尾方 隆幸(琉球大学島嶼防災研究センター)、大野 希一(島原半島ジオパーク協議会事務局)、有馬 貴之(横浜市立大学)

[MIS21-04] ジオパークエリアにおける高校生の活動とその効果-島原半島ユネスコ世界ジオパークの事例-

*大野 希一1 (1.島原半島ジオパーク協議会事務局)

キーワード:島原半島ユネスコ世界ジオパーク、高校生、シャツデザインプロジェクト、長崎県立口加高等学校

1:はじめに
 ジオパークプログラムを活用した地域社会の持続可能な発展を実現する上で,若い世代のジオパーク活動への参画は大変重要である.多くのジオパークでは,小・中学校における公教育の場でジオパーク学習が展開され,子どもたちがふるさとの魅力を学ぶ機会が提供されている.また,高校生については,学校生活の場において,自らの学習のみならず,自らが地域研究を行ったり,地域産品を活用した商品を開発・販売したりする機会もある.高校生自身が地域における活動に一定の成果や意義を感じることが出来れば,地域に定着する可能性が高いと言える.よって,高校生の活動をジオパーク活動とリンクさせることができれば,ジオパークプログラムを活用した,地域の持続可能な発展を実現する担い手が直接育成できる可能性がある.
 今回は,島原半島ユネスコ世界ジオパーク(以下,島原半島UGGp)における高校生の活動を紹介するとともに,それをどのように地域の持続可能な発展に関連づけようとしているかを紹介する.

2:島原半島UGGp高校生研究発表大会
 高校生による島原半島の地域研究の促進を目的として,島原半島ジオパーク協議会は,2012年度から「高校生研究発表大会」を開催している.本発表大会では,島原半島内から毎年3~4校・6~8件の発表がある.内容は島原半島の自然環境や地域産品を用いた商品開発事例,新たな観光ルートの開発など多岐にわたる.同協議会内に設置されている教育・保全委員会および観光運営委員会からの選抜メンバーがこれらの発表を評価し,最優秀賞,優秀賞,研究奨励賞,審査員特別賞を決定している.そして最優秀賞および優秀賞を受賞した高校については,九州内のジオパークを訪問する視察研修を副賞として提供し,研究の更なる発展を促している.

3:シャツデザインプロジェクト
 日本のジオパークでは,協議会事務局のスタッフが同じデザインのポロシャツをユニフォームとして着用することが多い.しかしそれらの多くは洗練されたデザインとは言えず,特に若い世代からは敬遠されがちである.これを解消するために,2017年,高校生を対象に島原半島UGGpのポロシャツのバックデザインを募集した.高校側の協力もあり,3 校から22件のデザインの応募があった.この応募作品に対し,地元の画家,高校の美術の教員や行政担当者,デザイナー,観光関係者で構成される評価委員がその作品を評価し,最優秀作品と優秀作品を各1点決定した.そして最優秀賞を受賞した作品については,プロのデザイナーによる監修を経て,実際に島原半島UGGpのポロシャツのバックプリントに採用された.現在このポロシャツは,島原半島UGGpの拠点施設「がまだすドーム」のミュージアムショップで購入出来る.

4:探求型学習への支援
 長崎県立口加高等学校において,2017年度に設置されたグローカルコースは,国際的な視野を持ちつつ地域に貢献する人材の育成を目的としたコースで,主に1・2年生がビジネス,観光,情報,植物,環境,防災,サイトに設置された看板をテーマとした7つの班に分かれ,探求型学習を行っている.協議会専門員はこれまで主に環境班と看板班の探究課題の指導を担当し,環境班については(独)環境再生保全機構が主催する「全国環境ユースネットワーク」において,2018年に九州・沖縄地方大会で優秀賞を獲得した.また看板班については,島原半島UGGpのサイトに設置された解説看板の評価に関する研究成果をJpGU2019およびJpGU2020のジオパークパブリックセッション(太田・他,2019;大嶋・他,2020)や,インドネシアで行われたアジア太平洋ジオパークネットワークの国際シンポジウム(Ota et al., 2019)などで発表している.

5:これまでの成果と今後の展望
 今回紹介した活動のうち,特にシャツデザインプロジェクトについては,美術部に所属する生徒が,デザインを通じて地域資源を学ぶきっかけをもたらしたほか,シャツの販売を通じて,地域経済の活性化に貢献したと言える.
 その一方で,研究活動に関しては,高校生自身の情報収集の範囲が限定的になりがちで,発展性に欠ける可能性がある.これを解決するために,国内のユネスコ世界ジオパークの認定地域内にある高知県立室戸高校,島根県立隠岐高校,京都府立峰山高校と口加高校の間でネットワークを作り,互いの研究成果の共有を通じて,各校で行われている地域研究の質を向上させる取り組みを始めている.2019年に行われた「日本ジオパークネットワーク全国大会おおいた大会」の際には,各高校の生徒と教員が直接交流する場を設けたほか,2020年1月に口加高校で行われた探求学習発表大会に,室戸高校の生徒がインターネットを通じて参加するなど,実質的な交流が始まっている.今後も,他のジオパークや高校の教員から協力をいただきつつ,各地域の高校生が他地域との比較を通じて,自らの地域の価値や特長をより深く認識できるような機会を提供していく予定である.